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天皇陛下の退位 有識者会議論点整理(全文)

天皇陛下の退位を巡る政府の有識者会議で、あいさつする安倍首相(右から2人目)。右端は今井敬座長=23日午後、首相官邸

■■■ 1 はじめに

 有識者会議は、ご高齢となられた天皇のご公務の負担軽減等を図るため、どのようなことができるのか、専門家からの幅広い意見を聴取しつつ、検討を重ねてきた。この論点整理は、有識者会議におけるこれまでの議論で明らかとなった論点や課題を分かりやすく整理したものであり、これを公表することによって、国民の理解が深まることを期待するものである。

■■■ 2 現行制度下での負担軽減

 ≪現行制度の概要≫

 (1)国事行為について

 ▽国事行為は、憲法に列挙されている国家機関としての行為。内閣の助言と承認により決定され、天皇に拒否権が認められない形式的・名目的な行為。
 ▽法律・政令の公布、国会の召集、国務大臣の任免の認証、大使の信任状の認証、栄典の授与、外国の大使の接受などが該当する。
 ▽国事行為の代理については、憲法に基づき、皇室典範が摂政について、国事行為の臨時代行に関する法律が委任について、その要件を規定。
 ▽摂政は、天皇が「成年に達しないとき」のほか、「精神もしくは身体の重患または重大な事故により、」国事行為を「みずからすることができないとき」に、天皇の意思にかかわらず設置される法定代理。天皇に意思能力がない場合等を想定していることから、国事行為の全部が恒久的に代理されることも想定。
 ▽委任は、「精神もしくは身体の疾患または事故があるとき」に国事行為を皇族に臨時に代行させる制度。天皇が意思を表明できる程度の疾病や外国訪問などの場合に、期間を限定して国事行為の全部または一部を行うことを想定。

 (2)公的行為について

 ▽自然人としての行為のうち、象徴としての地位に基づく公的なもの。
 ▽憲法上の明文の根拠はなく、義務的に行われるものではない。
 ▽天皇の意思に基づき行われるものであり、国民の期待等も勘案して行われるべきもの。個々の天皇の意思やその時代時代の国民の意識によって形成・確立される。
 ▽象徴としての天皇の公的行為を他の者が事実上代行したとしても、象徴としての行為とはならない。
 ▽地方事情ご視察、災害お見舞い、外国ご訪問、ご会見、宮中晩さんなどが該当する。

 (3)その他の行為について

 ▽自然人としての行為のうち、公的行為以外のもの。天皇の意思に基づき行われるもの。
 ▽宮中祭祀(さいし)、神社ご参拝、御用邸ご滞在、大相撲ご覧、生物学ご研究などが該当する。

 [1]運用による負担軽減

 (1)国事行為の負担軽減

 【積極的に進めるべきとの意見】
 ▽国事行為の一環として行われる儀式(栄典の親授式や信任状の奉呈式など)や国事行為に関連する儀式(認証官の認証式など)については、儀式を縮減するなどの見直しを行うとともに、皇族方に分担することなどにより、負担軽減が可能ではないか。

 【課題】
 ▽国事行為の一環として行われる儀式や関連する儀式は、国事行為であるご署名やご押印と密接な関係にあり、その見直しは困難なのではないか。

 (2)公的行為の負担軽減

 【積極的に進めるべきとの意見】
 ▽公的行為は、義務的に行われるものではないので、天皇の意思や国民の意識を踏まえたものでなければならないという制約はあるが、負担軽減を図るため縮小することを検討すべきではないか。
 ▽天皇自身が行わなくても、内容によっては、皇族方が行っても意義が低下しないものもあると考えられるので、皇族方による分担を行うべきではないか。

 【課題】
 ▽ご公務の削減や皇族方による分担は既にできるものは実施してきており、これ以上の見直しは困難なのではないか。

 [2]臨時代行制度を活用した負担軽減

 【積極的に進めるべきとの意見】
 ▽国事行為の臨時代行制度は、天皇が高齢の場合にも適用することが可能であり、天皇の健康状態に応じて、積極的に活用することにより、ご公務の負担軽減を図ることが重要ではないか。
 ▽昭和の時代に5件、平成になってから22件と多数の活用例があり、国民に自然に受け入れられており、円滑な実施が可能ではないか。
 ▽象徴天皇としての必要最小限度のご公務は天皇が実施し、その他のご公務は臨時代行制度を活用して分担していくことで、象徴天皇としての威厳や尊厳、国民からの信頼を維持したままで、高齢の天皇のご公務を軽減することが可能となるのではないか。
 ▽一部の事務だけの代行や、短期間の代行など柔軟な運用ができるため、お代替わりに備えて徐々にご公務を皇位継承者に分担していく手法として活用でき、円滑な引き継ぎに資するのではないか。
 ▽その際、例えば、国事行為である国務大臣の任免の認証、栄典の授与、外国の大使の接受を委任した場合は、併せて、これに関連する認証式、勲章受章者等の拝謁(はいえつ)、外国元首の接遇などの行事も代行に分担することで負担軽減が図られるのではないか。

 【課題】
 ▽臨時代行制度は、国事行為のための制度であり、今上陛下のご公務の負担のかなりの部分が公的行為であることを踏まえれば、国事行為の代理である臨時代行を設置したとしても、問題の解決にはならないのではないか。
 ▽国事行為の代行をする受任者が公的行為を事実上行うことは考えられるが、あくまで受任者としての行為であり、象徴としての行為とはならないのではないか。

■■■ 3 制度改正による負担軽減

 [1]設置要件拡大による摂政設置について

 ▽現行の摂政制度は、天皇に意思能力のない場合等における法定代理を規定したものであり、高齢であっても意思能力のある天皇には適用できない。
 ▽摂政によることとする場合には、現行の摂政制度を見直し、高齢の場合にも摂政を設置できるように要件を緩和する必要がある。

 【積極的に進めるべきとの意見】
 ▽退位には、強制退位や恣意(しい)的退位の問題、象徴や権威の二重性の問題などさまざまな問題があるとされている。退位ではなく摂政によることとすることが、退位の問題を回避でき、将来的にも安定的な皇位継承に資するのではないか。
 ▽憲法や皇室典範において予定された制度であり、設置要件を緩和したとしても、退位によるよりも、他の制度を変更する必要はあまりないのではないか。
 ▽憲法上、天皇は国事行為のみを行うこととされており、公的行為が行えなくなったとしても退位する必要はない。ご活動に支障があるのなら、憲法上予定されている代理である摂政の設置要件を緩和して摂政を設置することが最も適当なのではないか。

 【課題】
 ▽長寿社会を迎えたわが国において、例えば天皇が80歳のときに摂政を設置した場合、天皇が100歳となり、摂政である皇太子が70代になるというケースも想定される。このような長期間にわたり摂政を設置することや、摂政自身がかなりの高齢となられることは、象徴天皇の制度のあり方としてふさわしいのか。
 ▽制度上は象徴であるが象徴としての行為を行わない天皇と、制度上は象徴ではないが実質的には象徴が行う国事行為や公的行為を行う摂政とが並び立つこととなるので、国民は、天皇と摂政のどちらが象徴で、権威があるのか分かりにくくなり、象徴や権威の二重性の問題が生じるのではないか。
 ▽天皇は相当の高齢になってもその地位にあり続けることとなり、天皇の地位にある以上、天皇はそのお姿や健康状態が常に世間の注目を浴びることとなり、かえって天皇の威厳や尊厳を損ねることとなるのではないか。
 ▽摂政の問題を考える場合には、大正時代において、摂政設置の過程における天皇の尊厳を損なうようなご病状の発表、摂政のお立場の曖昧さ、5年にわたり摂政が設置されたことによる天皇の権威の分裂、当事者の複雑なご心境などの問題があったとされていることや、昭和の時代において、摂政設置をめぐり関係者間に葛藤があったとされていることをよく踏まえる必要があるのではないか。
 ▽憲法は国事行為の委任と摂政を規定し、現行制度ではこれを意思能力があるかどうかで区分している。高齢であっても意思能力がある天皇についてまで摂政を設置することができるようにすることは、憲法が定める摂政制度の範囲を超えるのではないか。
 ▽天皇の公的行為を摂政が事実上行うことは考えられるが、あくまで摂政としての行為であり、象徴としての行為とはならないのではないか。
 ▽摂政制度は、国事行為のための制度であり、今上陛下のご公務の負担のかなりの部分が公的行為であることを踏まえれば、国事行為の代理である摂政を設置したとしても、問題の解決にはならないのではないか。

 [2]退位による新天皇の即位について

 ▽憲法第2条は、「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。」と規定している。
 ▽皇室典範第4条は崩御のみを皇位継承事由としており、退位を実現するには何らかの立法措置が必要である。

 (1)退位について

 【積極的に進めるべきとの意見】
 ▽今上陛下については、ご意思に反してはいないことが推察されるので、退位に伴う弊害を心配する必要はないのではないか。
 ▽退位後の前天皇と新天皇との間で、象徴や権威の二重性の問題が生じるとの意見もあるが、それは前天皇が退位後にどのようなご活動をされるかによるところが大きいので、それまでのような公的なご活動をされなければよいのではないか。
 ▽皇太子殿下は現在56歳。これまで国事行為の臨時代行等のご公務を数多くこなされてきた。長寿社会を迎えたわが国において、このまま今上陛下が終身在位されると、例えば今上陛下が100歳になられたとき、皇太子殿下が73歳であられることが想定される。今上陛下が退位され、皇太子殿下が即位されることにより、円滑な皇位継承が行われ、象徴としての全てのご活動が途切れることなく安定的に継続されることとなるのではないか。
 ▽今上陛下は、即位以来28年という長期にわたり、国事行為はもちろんのこと、全国各地へのご訪問、被災地へのお見舞いをはじめとする公的行為に積極的に取り組んでこられた。国民はこのようなご活動こそが今上陛下のお姿であると認識し深く敬愛し、感謝しているのではないか。
 ▽今上陛下は、これまで続けてこられた公的行為を自ら続けることが困難となることにご心労を抱かれており、国民はそのご心労を理解し、また、共感し、今上陛下のご負担を軽減するためにはどのようなことができるのかについて考えているのではないか。
 ▽摂政や臨時代行では、公的行為を事実上行うことは考えられても、あくまで摂政や臨時代行としての行為であり、象徴としての行為ではない。今上陛下と今の時代の国民が作り上げてきた公的行為のあり方に基づくご活動を十分に行うことが困難になるかもしれないという今上陛下のご心労に鑑みれば、退位のほかには方法がないのではないか。今上陛下が退位された後は、新たな天皇の下で、その天皇と国民の間で新たな公的行為の範囲を構築していくこととなるのではないか。
 ▽これまで2度にわたり大きな手術を経験され、ご高齢となられた今上陛下のご健康状態も考えなくてはならないのではないか。
 ▽天皇の地位を退かれる以上、世間の注目の度合いは天皇とは異なるものとなり、退位された天皇の人間的な尊厳に配慮することができるのではないか。また、そのことにより、ひいては天皇の地位そのものの威厳や尊厳も守られることになるのではないか。

 【課題】
 ▽退位には、強制退位や恣意的退位の問題、象徴や権威の二重性の問題などさまざまな問題があるとされており、これらの弊害について考慮する必要があるのではないか。
 ▽天皇の自由な意思に基づく退位を可能とすれば、即位後ごく短期間での退位も可能となるので、即位しないことも可能としなければ均衡が取れないのではないか。そうなれば、憲法が定める世襲制を維持することが難しくなるのではないか。
 ▽天皇の意思に基づかない退位を可能とすれば、ある年齢に達すれば機械的に退位する制度としない限り、天皇の意向に反して天皇が退位させられることとなりかねないのではないか。
 ▽長期にわたり象徴であられた今上陛下が退位された場合、権威は引き続き残るので、国民は、退位後の天皇も象徴や権威ある存在として見ることとなり、二重性の問題が生じるのではないか。
 ▽明治の皇室典範を制定した際には、天皇の地位を安定させるために何人の意思も入らない「崩御」を唯一の皇位継承事由とし、天皇の退位を認めないこととした。こうした考え方は、現在の皇室典範においても引き継がれている。「退位」を皇位継承事由とすれば、ある年齢に達すれば機械的に退位する制度としない限り、天皇の意向、内閣や国会の発意など何らかのきっかけが必要とならざるを得ず、天皇の地位が不安定となるのではないか。
 ▽退位の理由や根拠をどのように整理することができるのかが重要なのではないか。
 ▽象徴としてのご公務ができないことを退位の理由とすると、「象徴としてのご公務ができない天皇は辞めるべき」とする能力主義となってしまい、憲法が定める世襲制と相いれないのではないか。
 ▽憲法上、天皇は国事行為のみを行うこととされており、国事行為については摂政や委任といった代理制度が整備されていること、公的行為の実施が求められているわけではないことからすれば、本来退位が必要となるような場合は、想定されないのではないか。

 (2)将来の全ての天皇を対象とすべきか、今上陛下に限ったものとすべきかについて

 (イ)将来の全ての天皇を対象とする場合

 【積極的に進めるべきとの意見】
 ▽憲法において皇位継承は皇室典範で定めることとされており、皇室典範に恒久的な制度が定められている。このため、新たな制度を作る場合は皇室典範を改正し、恒久的な制度とすることが憲法の趣旨に沿ったものとなるのではないか。
 ▽皇室典範改正によらず、今上陛下に限ったものとする場合、本来皇室典範が一元的に定めるべき規範が複線化し、皇室典範で皇位継承を定めるとする憲法の趣旨に反するのではないか。
 ▽今上陛下に限ったものとすることは法の一般性の原則に反するのではないか。
 ▽今上陛下に限ったものとする場合、後代に通じる退位の基準や要件を明示しないこととなるので、後代さまざまな理由で容易に退位することが可能になるのではないか。その場合、時の政権による恣意的な運用も可能になるのではないか。
 ▽退位の具体的な要件を定めなくても、皇室会議の議決を要件とするなど退位手続きを整備することにより、恣意的な退位を避け、退位の客観性を確保することができるのではないか。
 ▽強制退位を避けるためにも、天皇の意思に基づくことを要件とした退位を将来の全ての天皇が行えるようにすべきではないか。
 ▽高齢を要件とすれば、恣意的な退位を避け、退位の客観性を確保することができるのではないか。
 ▽「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ」ておられる今上陛下のおことばに応えるためには、恒久的な制度とする必要があるのではないか。
 ▽長寿社会を迎えたわが国において、高齢の天皇の課題は今後も生じる。このような課題は皇室典範制定時には想定されていなかったのであるから、時代の変化に合わせ、皇位継承事由を「崩御」のみに限定するという原則を見直し、退位制度も原則の一つとして位置付ける必要があるのではないか。その方が安定的な皇位継承に資するのではないか。
 ▽過去の124代の天皇のうち、半数近くの58方が退位をしており、歴史的にはむしろ退位が皇位継承事由の原則であった。退位を否定した明治の皇室典範の制定以降の事例はむしろ例外であり、長い皇室史の原則に戻るべきではないか。

 【課題】
 ▽皇室典範を改正すれば制度化になり、次代にもその次にも適用され、特別法であれば一代限りのものとなるとの意見が見られる。しかし、皇室典範に根拠を持つ特別法において一代限りでなく後代まで適用可能にするという法形式や、皇室典範の付則で今上陛下だけに適用するという法形式も可能なのではないか。
 ▽法制的な法形式論よりも、今上陛下のこのご状況に限って判断するのか、それとも全ての天皇を対象とする制度を作るのかということが、議論の本質なのではないか。
 ▽今上陛下に限ったものとする場合は、例えば今上陛下が85歳で皇太子殿下が58歳となられている場面だけを想定すればよいので、現在において判断することが可能なのではないか。一方、将来の全ての天皇を対象とする場合、天皇が80代のとき、皇位継承順位第1位の方が70代などさまざまな年齢である場面においても不都合でないものとする必要がある。こうした将来の状況を、社会情勢の異なる今の時代において想定して規定すべきではないのではないか。
 ▽皇位継承者との年齢差、政治社会情勢、国民の意識など天皇を取り巻く状況もさまざまに変わり得るので、その時代時代において、その時の国民がその時の天皇を取り巻く状況を踏まえて、退位の是非を判断することが望ましいのではないか。
 ▽特定個人・集団を対象とした立法であっても平等原則や三権分立などの他の憲法原理に反しない限り、許されるのではないか。そもそも、憲法上の天皇の地位については、一般国民と同様に論じるべきではないのではないか。
 ▽恒久的な退位制度を作る場合、退位の要件を設ける必要がある。将来の全ての天皇を対象とした個別的・具体的要件を規定することは困難であることから、一般的・抽象的な要件を定めることになるが、その場合、時の政権の恣意的な判断が法の要件に基づくものであると正当化する根拠に使われるのではないか。
 ▽国会において、皇位継承者との年齢差や皇室の状況、国民の意識や社会情勢などを踏まえ、法案として審議することが、国民の意思を最も的確に反映し、恣意的な退位を回避できることとなり、憲法の趣旨に沿ったことになるのではないか。
 ▽今上陛下が退位される事情を法案に詳細に書き込めば、後代恣意的に運用されることを避けることができるのではないか。
 ▽摂政の設置要件である「精神もしくは身体の重患」の事実認定等を行う機関である皇室会議に、具体的な要件を設定することなく白紙で「天皇の退位」に係る判断を担わせることは困難なのではないか。
 ▽「天皇の退位」の判断の責任は、皇室会議ではなく、最終的には政府や国会が負うべきではないか。
 ▽三権の長や天皇の親族である皇族によって構成される皇室会議に、「天皇の退位」の判断という国政に関する包括的な権能を付与することは、三権分立の原則や天皇の国政関与禁止を定める憲法の趣旨に鑑み、不適当なのではないか。
 ▽天皇が意思表示した場合に退位できることとすると、皇室会議や国会等の別の機関が退位は望ましくないとの判断をすることは通常考えにくいのではないか。そうなれば、将来その時々の政治情勢を理由に天皇が退位するというような事態を招きかねないのではないか。
 ▽天皇の意思に基づく退位を可能とすれば、そもそも憲法が禁止している国政に関する権能を天皇に与えたこととなるのではないか。
 ▽天皇の意思に基づく退位制度とした場合であっても、世論や時の政権の圧力により、不本意ながら天皇が退位の意思を表明させられるような場合も否定できないのではないか。
 ▽仮に、天皇の意思に基づかない退位制度とする場合、ある年齢に達すれば機械的に退位する制度としない限り、天皇の意向に反して天皇が退位させられることとなりかねないのではないか。
 ▽退位の要件を設ける場合に、例えば「高齢」を要件とするとしても、現行法規においてさえ、高齢の基準となる年齢は「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」では55歳以上、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」では60歳以上、「高齢者の医療の確保に関する法律」では前期高齢者が65歳以上、後期高齢者が75歳以上、「道路交通法」では70歳以上とさまざまに分かれて規定されており、「高齢」は幅のある概念である。年齢は個人差が大きく、また、平均寿命は将来延びる可能性があることも踏まえれば、一定の年齢をもって高齢を定義することは困難ではないか。
 ▽現在、約40年前に制定された「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」が55歳を高年齢としていることに違和感を覚えるように、その時代時代で国民の意識や社会情勢なども変わり得るので、将来の状況を見据えた上で全ての天皇を対象とするような要件を設けることは無理があるのではないか。
 ▽高齢による体力や思考力などの心身の健康状態の変化を要件とし、医師の診断を義務付けるとしても、心身の状態の変化を判断することは難しく、一律の基準を作ることは困難であり、その認定も主観的なものとならざるを得ず、恣意的な運用となるのではないか。
 ▽職務遂行能力を要件とすることは、「象徴としてのご公務ができない天皇は辞めるべき」とする能力主義となってしまい、そもそも憲法が定める世襲制と相いれないのではないか。
 ▽職務遂行能力として、国事行為を基準とすれば、法が予定している摂政や臨時代行制度を活用しないことの説明がつかない。また、公的行為を基準とすれば、憲法上公的行為は位置付けられていない中で、法令でそれを根拠にしてよいのかという問題があるのではないか。
 ▽仮に、今上陛下のご意向に沿って制度改正したということとなると、憲法の趣旨に反するのではないか。
 ▽将来の全ての天皇が退位できるような制度とすると、皇位継承事由としては「崩御」と「退位」が原則となるが、通常は「崩御」の前に「退位」を問題とする事態の方が先に訪れることから、事実上、皇位継承事由としては「崩御」より「退位」の方が原則となってしまい、「崩御」を原則としている現行制度を大きく見直すこととなるのではないか。
 ▽日本国憲法下の天皇に係る議論において立憲制確立より前の事例は参考にならないのではないか。

 (ロ)今上陛下に限ったものとする場合

 【積極的に進めるべきとの意見】
 ▽旧皇室典範以来、「崩御」のみが皇位継承事由とされており、退位することを当然のことと考えるべきではない。天皇の進退についてはよほど慎重に事を運ばなければいけない。不本意な退位があってはいけないし、政治的な意味合いを持ってもいけない。今の状況であれば、皇位継承者との年齢差、政治的な状況、国民の意識などが確認でき、今上陛下のご意思に反してはいないことも推察され、的確な判断が可能である。一方、将来の天皇については、皇位継承者との年齢差、その時の政治経済状況、その代の天皇の考え方や世論は変化する。状況がよく分かっている今の状況下で判断するのはよいが、将来の全ての天皇を対象とするような制度にはしないほうがよいのではないか。
 ▽今回は今上陛下のご状況を受け止めて例外的に退位していただくこととし、仮に将来退位について考えるべき状況が生じた場合においては、退位の是非について、そのときに、皇位継承者との年齢差や皇室の状況、国民の意識や社会情勢などを踏まえ、国会等において判断することが、国民の意思を最も的確に反映したものになるのではないか。
 ▽仮に恒久的な制度とすることとすれば、退位の要件を規定することとなるが、天皇の意向に反した時の政権による強制的な退位や、その時々の政治情勢を理由に天皇が退位することを排除する制度を作ることは困難であるから、恒久的な制度とすべきではないのではないか。
 ▽退位の要件を設ける場合、天皇の意思に基づかない退位制度とすると、ある年齢に達すれば機械的に退位する制度としない限り、天皇の意向に反して天皇が退位させられることとなりかねないのではないか。また、天皇の意思に基づく退位制度とすると、皇室会議や国会等の別の機関が退位は望ましくないとの判断をすることは通常考えにくいのではないか。そうなれば、将来その時々の政治情勢を理由に天皇が退位するというような事態を招きかねないのではないか。

 【課題】
 ▽長寿社会を迎えたわが国において、高齢の天皇の課題は今後も生じる。このような課題は皇室典範制定時には想定されていなかったのであるから、時代の変化に合わせ、皇位継承事由を「崩御」のみに限定するという原則を見直し、退位制度も原則の一つとして位置付ける必要があるのではないか。その方が安定的な皇位継承に資するのではないか。
 ▽今上陛下に限ったものとする場合、後代に通じる退位の基準や要件を明示しないこととなるので、後代さまざまな理由で容易に退位することが可能になるのではないか。その場合、時の政権による恣意的な運用も可能になるのではないか。
 ▽退位の具体的な要件を定めなくても、皇室会議の議決を要件とするなど退位手続きを整備することにより、恣意的な退位を避けることができるのではないか。

■■■ 4 今後の検討の方向

 有識者会議においては、論点整理に対する国会や世論の動向等も参考にしながら、さらに議論を深めていく必要がある。その際には、長寿社会に的確に対応するための医学的見地からの検討も必要であり、さらに、退位後のお立場や称号、ご活動のあり方などのその他の課題についても検討する必要がある。


関連ページ: 広域 政治・行政

2017年01月24日火曜日


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