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<バブルとメセナ>文化を支え利益三分

いわきPITで演劇鑑賞をした高校生たち。文化支援は被災者の心の復興につながっていく=いわき市内

CSR(企業の社会的責任)の水脈をたどると先人の無私、公益の精神に行き着く。商人や企業にはそれぞれの時代、社会的責任を自覚し、社会貢献に動く姿があった。(「被災地と企業」取材班)

◎トモノミクス 被災地と企業[11]第2部 水脈(3)かなでる

 魂のないカネが行き場を求めてさまよう。それがバブル景気だった。
 「俺が死んだら絵を棺おけに入れて焼いてくれ」
 大手製紙会社の名誉会長が放った遺言が世界のひんしゅくを買った。名誉会長は1990年、ゴッホとルノワールの絵を百数十億円で落札。「世界の宝を燃やすのか」と批判を浴びた。
 戦後の日本経済は拡大成長路線を走り、80年代後半、爛熟(らんじゅく)期を迎える。大企業は投機行為のように芸術作品を購入。名画は「壁に掛かった土地」とやゆされた。
 企業が社会への利益還元を図る文化活動を「メセナ」と呼ぶ。企業メセナ協議会の荻原康子事務局長(50)は「金で文化を買うような一部の行為がメセナと見られたのは残念。反省を基に『メセナは見返りを求めない文化支援』との見解を出した」と語る。拝金主義に根差す「社会貢献」はバブルとともに消えた。

 今に続くメセナもある。
 「利益三分(さんぶん)主義」。もうけを社会貢献、客と取引先、事業への再投資に分配するというサントリーの創業理念だ。
 86年、理念を体現する東京初のクラシック専用コンサートホールが誕生した。東京・赤坂のサントリーホール。年に約600公演が開かれ、延べ1700万人以上が鑑賞した。
 「創業理念を体感してほしい」。サントリーホールディングスの新浪剛史社長(57)は、社員が同ホールを訪れることを期待する。
 同社コーポレートコミュニケーション本部CSR推進部長の富岡正樹さん(51)は「サントリーは企業活動そのものがCSR(企業の社会的責任)と考えている。ホールは社員の帰属意識を高め、企業ブランド向上につながる」と語る。

 東日本大震災を経て、メセナの水脈は東北の被災地で豊かに湧き出している。
 釜石、仙台、いわき3市の多目的劇場「PIT」。娯楽の力を復興に生かそうとイベント会社などでつくる一般社団法人「チームスマイル」(東京)が開設した。コンサートや若者向けのライブに加え、住民がイベントなどに利用する。
 PITは東京・豊洲にもあり、ホールの賃料やドリンク代の一部で、被災地3施設の運営費を賄っている。施設存続に向けて生み出した知恵だ。
 「経営と社会性は車の両輪のようなもの」と言うチームスマイル代表理事で、チケット販売業ぴあ(東京)の矢内広社長(67)=いわき市出身=は確信する。「復興は長期戦になる。文化や芸術の支援は続けることに意義がある」
 市場原理を超えた文化活動が奏でる復興支援。80年代に芽生えたメセナの神髄は、バブル崩壊を乗り越え、CSRの土壌を育んだ。

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 企業の社会的責任(CSR)。21世紀、世界の企業に浸透し始めた概念だ。東日本大震災後、東北の被災地には無数の企業が足を踏み入れ、試行錯誤を重ねた。艱難(かんなん)の地へ、生活の糧を、癒やしを、希望を。企業を突き動かした衝動は何だったのだろう。あれから間もなく6年。CSRを足掛かりに、あの日に返って経済社会を展望する。見えてくる明日を、私たちは「トモノミクス」と呼ぶ。


2017年01月29日日曜日


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