山形のニュース

<東北の本棚>謎解き後心地よい余韻

◎白衣の嘘/長岡弘樹 著

 手術ミスや患者虐待の隠蔽(いんぺい)、診療報酬の不正請求と、日々のニュースを見れば医療現場にはさまざまな虚偽虚構が潜んでいるようだ。もちろん、不治の病の患者に対し余命をあえて欺く配慮もあるだろう。本書収録の六つの短編ミステリーはいずれも、命と直面する医師がそれぞれの内に抱える正義と闇とを多彩に描く。
 「涙の成分比」では、バレーボール日本代表の女子大生彩夏が、医師である姉多佳子と車で帰省中、トンネル崩落事故に遭う。つぶれた運転席に彩夏だけ閉じ込められる。厳しい練習のストレスで失感情症に陥っていた彩夏は、多佳子に「死なせて」と懇願するが、姉は聞き入れず、ある手段で妹の真意を見抜く。
 臓器移植法にはドナーから親族への優先提供規定があるが、提供目的の自殺を防ぐため自殺者の場合は認められていない。こうした制度を題材にした「小さな約束」は、腎不全の女性刑事と刑事を志す弟、主治医との温かな交流を軸に展開する。
 書名通り、どれも白衣を着た医師の嘘と本懐がテーマだが、登場人物が複数の医師であれば、誰が何の意図でどう偽っているのか、謎解きする面白さがある。精緻に仕掛けられた伏線は結末に向けて鮮やかに回収され、読後に残るのはヒューマニズムの静かな余韻。「私、失敗しないので」の大門未知子もブラック・ジャックもいない。誰もが「医は仁術」とばかりに正義を声高に主張することなく、心地よい。
 警察学校を舞台にした「教場」をはじめ、切れ味鋭い警察小説でも知られる著者の初の医療ミステリー短編集。「力を尽くして書き上げた、渾身(こんしん)の『処方箋』です。あなたの心にきっと効くはずです」とのコメントを寄せている。
 著者は1969年山形市生まれ、同市在住。05年「陽だまりの偽り」でデビュー。08年「傍聞(かたえぎ)き」で日本推理作家協会賞短編部門。
 KADOKAWA0570(002)301=1512円。


2017年02月19日日曜日


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