広域のニュース

<震災6年>亡き人の魂と再会 霊体験出版

自宅の仕事場で執筆する奥野さん。「私は記憶を刻む器。遺族からあふれる言葉を受け止めるだけだった。そんな思いになったのは今回の取材が初めて」

 東日本大震災の被災地で亡き人の魂と再会した遺族の霊体験の聞き取りを2012年から進めてきたノンフィクション作家の奥野修司さん(68)=東京都町田市=が、取材の成果を本にまとめた。恐怖とともに語られる幽霊話ではない。震災で突然、理不尽に生を断ち切られた人と、生き残った家族が織り成す物語が克明につづられている。
 掲載されているのは、不思議としか形容できない体験ばかりだ。「どこにも行かないよ」とほほ笑む39歳の妻と1歳の娘。56歳の兄から届いた「ありがとう」のメール。仮設住宅の天井に響く8歳の息子の足音。ハグしてくれる57歳の夫。「イチゴが食べたい」とねだる3歳の孫(年齢は全て被災当時)。
 夢に出てくる。音や光でアピールする。現れ方はさまざまだが、遺族は深い悲しみの中で亡き人の存在を感じ、生きる力をもらう。奥野さんは「被災地の霊体験とは、そうした瞬間の一つではないか」と考える。
 霊の存在をうんぬんするよりも、その体験を素直に受け止める姿勢を貫いた。しかし、体験には再現性がない。客観的な検証もできない。どう事実と伝えるか。大宅壮一ノンフィクション賞の受賞者で経験豊かな奥野さんといえども悩み苦しんだ。語り手には3回以上会い、真実を語っているかどうかを見極めた。
 「大切な人を亡くした私には何年たっても復興はない」「少しずつ復興していくのを見ると、取り残されていくような気がしてすごく嫌でした。自分だけが止まっている」。遺族の言葉の端々に復興の遠さ、悲しみの大きさがこもる。
 そうした痛みは時間では癒やせないと奥野さんは断言する。「悲しみは別れが突然であるほど大きい。津波の死はその極み。街はいつか新品になるかもしれない。遺族の復興に終点はない。震災を永遠に背負う」
 悲しみと共存できる道はないのか。奥野さんは「人は物語を生きる動物。物語を断ち切られた死者に家族が向き合い、納得できる物語が紡ぎ直された時、悲しみは小さくなる。生きる力を得る」と説く。
 物語は他者に語られて力を増す。大切な人の記憶を誰にも話せず抱え込んだままの遺族は今も少なくない。自分の心を追い詰めるだけではなく、亡くなった人の物語も消えてしまう。「私の本がきっかけの一つになり、死者の物語を普通に語れる環境があちこちに生まれてほしい」と願う。
 生者と死者が再会した16の物語を集めた「魂でもいいから、そばにいて 3.11後の霊体験を聞く」(新潮社)は28日、出版される。


2017年02月21日火曜日


先頭に戻る