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<糸魚川火災とCSR>消費者の共感 復興の力

147棟が焼けた糸魚川大火の焼け跡。消費者の共感を呼ぶCSRは復興の原動力になると実感した=1月26日、新潟県糸魚川市

 新潟県糸魚川市で147棟が焼けた昨年12月の大火の焼け跡で、地域の復興をけん引する企業の気概を見た。東日本大震災の被災地を起点に企業社会の明日を考える本紙連載「トモノミクス 被災地と企業」の取材班の一員として1月下旬、同市に入った。震災で生まれた復興CSR(企業の社会的責任)の精神は、猛火に見舞われた地方都市に広がっていた。(報道部=氏家清志)

 大火後、企業の対応は俊敏だった。大手携帯電話会社は発生当日、電池パックやアダプターの無償提供など支援策を発表。大手カメラメーカーは4日後、「火災で壊れた製品の修理代を割り引く」と呼び掛けた。
 同市総務課の大西学係長は企業の支援情報をホームページに載せようとした。その数、約100社。紹介しきれず、諦めざるを得なかった。大西係長は「あまりの多さに驚いた」と企業の熱意に目を見張る。
 営利企業のしたたかな戦略に映るかもしれない。だが、行政の目が行き届かない分野への支援が生活と地域経済の早期再建を促すことを、多くの企業は震災体験を通じて気付いた。
 連載「トモノミクス」では震災で被災した地場の企業が商売を続け、食料などライフラインや雇用を維持した事例を紹介した。事業継続はCSRの要だ。糸魚川の焼け跡でも同じ動きがあった。飲食店、呉服店、学習塾。それぞれが自らの役割を果たそうと歯を食いしばった。
 こうした企業の姿勢を消費者が後押しした。
 全焼した加賀の井酒造は富山県の同業他社のタンクを借り、事業再開を決めた。東京では加賀の井酒造の酒をまとめ買いする客が相次いだ。取引がある北海道小樽市の酒店は、数日で約100本を売り切った。
 「買って、食べて、飲んで支援して」。震災当時、東北の被災企業の言葉は全国の自粛ムードを突き破り、被災地の経済を勇気づけた。呼応した消費者の行動は地域経済を回した。
 震災と大火の取材を通じ、消費者の共感を呼ぶCSRは復興の原動力になることを実感した。消費者と企業がCSRを通じて連携する流れを定着させるには、何が必要か。
 CSRに詳しい一般社団法人RCF(東京)の矢沢弘美広報担当は「利益第一という考えが経営陣に強い限り、社員は社外と接点を持とうとしない」と指摘する。CSRに積極的な企業は経営者が主導するケースが多い。不熱心な場合、CSRに取り組む社員が浮き上がり、士気は低下する。
 CSRは支援対象への一方通行ではなく、長期的に見て企業価値の向上につながる循環を生み出し、経済的な合理性がある。CSRの取り組みが新商品や新サービスを生んだ事例は数知れない。
 少子高齢化、過疎化、産業空洞化。課題先進地の被災地・東北で芽吹いた復興CSRは糸魚川の地で再現された。次のステップは、災害対応にとどまらず、広範な社会課題を解決するCSRの取り組みを地方の現場から発信することだ。

[CSR]企業が純粋な経済活動だけでなく、法令を守り、自然環境や労働、貧困といった社会的課題に対し、持続的発展を目的とする自主的な取り組み。1990年代以降、欧米で確立された。日本では2003年を「CSR元年」と呼ぶ。米ハーバード大のマイケル・ポーター教授が11年に提唱した、本業を通じて社会課題を解決する「戦略的CSR」(CSV=共通価値の創造)に軸足を移す企業が増えている。


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2017年02月27日月曜日


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