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<台風10号半年>避難態勢 残るリスク

解体された高齢者グループホーム「楽ん楽ん」の跡地。奥にあるのは介護老人保健施設「ふれんどりー岩泉」で、4月に運営を再開する=2月、岩手県岩泉町

 岩手県沿岸を襲った台風10号豪雨から28日で半年となる。県内で21人が死亡、2人が行方不明となった災害の爪痕は、被害が甚大だった岩泉町を中心にいまだ深く残る。濁流の余波に苦悩する被災地の今を見た。(盛岡総局・横山勲、斎藤雄一、宮古支局・高木大毅)

◎濁流の余波(上)福祉防災

 尊い命が失われた地に、しんしんと雪が降る。
 解体工事がほぼ終わった岩手県岩泉町の高齢者グループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」の跡地。昨年8月30日、台風10号豪雨で氾濫した小本(おもと)川の濁流が襲い、入所者9人が死亡した。
 「半年たっても気持ちの整理はつきません」。同町で美容室を営む中屋敷明子さん(48)は、ここで義母の中屋敷チエさん=当時(85)=を亡くした。
「反省生かして」
 悲劇を招いたのは運営法人の甘い危機管理だった。
 「楽ん楽ん」に隣接する3階建て介護老人保健施設は2011年9月に洪水被害に遭っていた。にもかかわらず、水害対応の避難計画を立てていなかった。
 台風10号接近に備え町は避難準備情報を出したが、法人は「要援護者の避難を促す」という定義を理解しておらず対応が遅れた。
 明子さんは「少しでも今回の反省を生かしてもらいたい。他の人に私たちと同じ思いをしてほしくない」と訴える。
 痛ましい犠牲を教訓に、福祉施設の避難態勢は見直しが進んだ。
 内閣府は昨年12月、意味が分かりにくいと指摘があった避難準備情報の名称を「避難準備・高齢者等避難開始」に変更。高齢者や障害者の避難を求める直接的な表現となった。
 岩手県内では水害対応の避難計画がなかった福祉施設1611カ所のうち、1月末までに約半数の779カ所が策定を終えた。
施設同士で共助
 それでも課題は残る。入所者の移動には人手が要り、高齢者や障害者は避難途中に体調を崩すことも予想される。万が一の災害リスクと入所者の健康リスク。現場は板挟みに苦慮する。
 「入所者の負担を考えると、すぐに避難所に行くのはためらった。川の水位や氾濫時刻を見極め判断したかったが、手いっぱいで情報を収集できなかった」
 久慈市の高齢者グループホーム「やすらぎの里」の黒沢和子施設長(47)は打ち明ける。
 近くの久慈川が氾濫し、入所者と膝まで水に漬かりながら避難所に向かった。避難勧告を伝える防災行政無線は風の音にかき消されて聞こえなかった。
 黒沢さんはあの時の不安を振り返り「現場は常に人手が足りない。ささいな情報でも自治体が直接電話で伝えてほしい」と求める。
 施設同士が支え合う地域もある。氾濫被害が繰り返された北上川流域の花巻市石鳥谷町。16施設の連絡協議会が災害時の共助を構築する。年4回の研修会で食料備蓄や防災計画の改定状況を共有。災害時は要請に応じ職員を派遣したり、避難を受け入れたりする。
 協議会事務局の障害者施設「松風園」の佐藤宏昭園長(60)は「仕組みがあっても活用しなければマンネリ化する。地域で防災意識を高く保ち続けられるかどうかが課題だ」と語る。
 新潟医療福祉大の岡田史教授(災害介護)は「行政が施設の災害対策をフォローするのは当然。施設側も訓練や災害学習を通じて想定外への対応力を磨かなければ、最悪の事態は防げない」と指摘する。


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2017年02月28日火曜日


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