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<台風10号半年>外部の目で分析必要

台風10号が直撃した昨年8月30日夕、情報の取りまとめを担った岩泉町役場3階の総務課。町民からの電話が殺到して機能がまひした=2月、岩手県岩泉町

 岩手県沿岸を襲った台風10号豪雨から28日で半年となる。県内で21人が死亡、2人が行方不明となった災害の爪痕は、被害が甚大だった岩泉町を中心にいまだ深く残る。濁流の余波に苦悩する被災地の今を見た。(盛岡総局・横山勲、斎藤雄一、宮古支局・高木大毅)

◎濁流の余波(下)対応検証

 「必ずこの困難を克服する。できる限りの英知と経験を結集して難題に取り組んでいく」
 昨年8月の台風10号豪雨で甚大な被害が出た岩手県岩泉町の町議会3月定例会。伊達勝身町長は施政方針に危機感をにじませた。
 町内では20人が犠牲になり、1人の行方が分かっていない。倉庫などの非住家を含む建物1884棟が被災した。被害額は東日本大震災の約10倍となる439億円に達した。
 後手に回った町の対応が被害拡大の一因だった。
危機管理に欠陥
 台風10号が岩手沿岸に接近した昨年8月30日、町は朝のうちに避難準備情報を出したが、全域の避難勧告や指示の発令は見送った。伊達町長自ら氾濫前の小本(おもと)川の水位を見て回り「大丈夫だ」と判断した。
 夕方には豪雨と急激な川の増水。役場には住民からの電話が殺到し、対策本部はまひした。小本川の水位が避難勧告発令基準の2.5メートルを超えたという情報は町長に伝わらなかった。
 岩手大地域防災研究センターの越野修三客員教授(危機管理学)は「町の危機管理に組織的な欠陥があったことは明らか。検証と反省がなければ同じ過ちを繰り返す」と警鐘を鳴らす。
 防災体制の検証作業は県が先行した。昨年10月に県防災会議に分科会を設け、被災自治体の災害対応の問題点を分析。自治体の避難情報発令を助言する専門家チームの設置や関係機関の対応を時系列で整理するタイムライン(事前防災計画)の導入を決めた。
 町も県と歩調を合わせ、災害時の職員配置など地域防災計画を全面的に改訂する。ただ、町単独で台風当日の対応を詳細に検証したり、報告書を作成するなどの予定はない。佐々木久幸町総務文書室長は「検証作業に長い時間をかけるより、地域防災計画の見直しや復旧作業を少しでも進めたい」と説明する。
専門家 77の提言
 過去の風水害で甚大な被害に直面した全国の自治体は、専門家を交えた検証を基に新たな防災対策を講じてきた。
 茨城県常総市では2015年9月の関東・東北豪雨による鬼怒川の決壊で、逃げ遅れた市民約1340人がヘリコプターで救助された。過去の水害経験に基づく過信や職員間の連絡ミスで避難情報の発令が遅れた。岩泉町と似たケースだ。
 市は同年12月、学識経験者5人による検証委員会を設置。市職員や関係機関計177人の証言を集め、初動から住民避難が完了するまでの対応を分析した。
 関係機関との連絡要員の相互派遣、各地区から寄せられた災害情報の整理の仕方など検証委の提言は77項目に及んだ。防災業務を担う市安全安心課の斎藤健司課長は「行政だけでは気付けない問題点が多くあった」と振り返る。
 検証委員長を務めた筑波大の川島宏一教授(自治体情報戦略)は「災害時の行政のミスを指摘するには独立した視点が必要。他の自治体に教訓として発信するためにも、岩泉町には質の高い外部検証が求められるはずだ」と指摘する。


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2017年03月02日木曜日


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