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<私の一歩>すし職人、家具の世界に

「いずれは自分たちのショップを持ちたい」と語る千葉さん=宮城県石巻市渡波の石巻工房

 震災からもうすぐ6年。さまざまな形で自分の一歩を踏み出した人たちの今を取材した。

◎震災6年(3)千葉隆博さん(44)=宮城県石巻市=

<自力復旧を支援>
 「鮨(すし)職人」から、海外でも注目を集める家具メーカーの工房長へ。東日本大震災が新たな扉を開く契機となった。
 石巻工房の工房長千葉隆博さん(44)=石巻市=は震災前、石巻市内のすし店で父親と共にすしを握っていた。ただ、心の奥底にはもやもやとした感情がおりのように沈んでいたという。
 「本当は建築関係の仕事がしたかった。建築を学ぶ専門学校にも通ったんです」。休日のアウトドアや日曜大工が趣味だった。
 「石巻は閉塞(へいそく)感が漂っていて、不謹慎ですが、何か起こらないかなあ、と思っていた」。その何かは2011年3月11日、惨劇を伴って襲ってきた。津波で店舗兼自宅が被災し、母親が犠牲になった。
 知人の料亭でアルバイトをして過ごしていた時、石巻工房に出合う。石巻に支援に入った建築家の芦沢啓治さんが11年6月、商店街の一角に設置した小さな工房だ。
 千葉さんが振り返って言う。「津波で被災した地域住民や商店主らが家や店を自力で復旧できるよう、必要な工具や材料をそろえた場だった」

<被災者面しない>
 工房をのぞくようになった千葉さんは、石巻工高の生徒たちとイベント用のベンチを製作するなどした。「気が付いたら周囲から工房長と呼ばれ、働くことに…。好きだったことが仕事になった」
 復興の過程で生まれた石巻工房には、海外などからも著名なデザイナーらが参加し、オリジナルの家具をデザイン。千葉さんらが製作し、販売する。次第に口コミで人気が広がった。
 無塗装でも屋外で使えるレッドシダーと呼ばれる木材が主な材料。シンプルなデザインの椅子やベンチ、テーブル…。軽くて丈夫、さまざまな用途に使える。
 「被災者面はしたくない。あくまで製品で勝負したい」。12年度には「グッドデザイン賞」を受賞。東京や海外の展示会で評価され、取引先が広がる。モダンなオフィス家具で知られる米国のハーマンミラーがこのほど、米ニューヨーク店で取り扱いを始めた。
 スタッフは千葉さんを含め5人。「地元の人々が自立運営する小さな産業として、地域を活性化する起爆剤になりたい」
(石巻総局・古関良行)


2017年03月03日金曜日


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