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<震災6年>白球に思い 原発避難苦難背負う

原発避難が続く古里への思いを胸に春季リーグ戦に向けて調整する松下=仙台市の宮教大グラウンド

 183センチの右腕から渾身(こんしん)の力を白球に込め、打者に立ち向かう。投球の切れ味と球速を上げるために厳しい体力トレーニングに励む。宮城教育大硬式野球部の松下圭太投手(2年)は、東日本大震災による東京電力福島第1原発事故で避難指示が出ている福島県飯舘村の出身。古里を追われた苦しみを抱えながら、野球に向き合う日々だ。

◎福島・飯舘村出身 宮城大野球部の松下圭太さん

<人生見つめ直す>
 仙台六大学リーグでの通算成績は18戦で3勝7敗。最速148キロの速球を武器に主に抑えとして活躍する。昨秋、チームは18度優勝の東北学院大に連勝し、33年ぶりに勝ち点を奪取。松下はその快挙に貢献した。
 秘めた思いがある。「自分が満足できるまで、もっとうまくなりたい。死ぬときに何も残らないのは嫌だ」。あの日を経験し、真剣に人生を見つめ直すことが増えたという。
 飯舘村飯舘中2年の時に震災に遭った。主戦として最上級生を迎える直前だった。電気や水道が止まり、家族と共に福島市へ避難。原発事故による避難指示で古里に戻れなくなった。
 混乱の中で1年間、野球から遠ざかり、福島高入学後に再開。「レギュラーで試合に出たい」と無我夢中で頑張った。速球派として注目され、2年秋には福島県大会でベスト8入り。宮教大に進学後も周囲の勧めで野球部の門をたたいた。
 「中学、高校とせわしさの中で過ごしてきた」という環境が変わり、震災について考えるゆとりができた。原発事故による放射線量の情報を探すと、人体への影響を否定する論文がある一方で、不安をあおる情報も流布されていた。読むたびに心が乱れた。

<リーグ戦に全力>
 「自分は安全だと思っているが、情報に触れるたびに何が正しいのか分からなくなる。心のどこかに、もやもやしたものを抱えている」。そんな苦しさを、プレーに汗を流すひとときが忘れさせてくれる。
 今年1月、震災後に飯舘村内で初めて開かれた成人式に出席。久々に再会した仲間たちは仙台六大学リーグで戦っていることを知っていた。「『すごいね』と言われてうれしかった。自分のプレーに注目し、励みにしてもらえるのはありがたい」と喜ぶ。
 避難指示は3月末に解除される。大学で教育課程を学ぶが、将来、どんな形で古里と関わるのか、まだ決めかねている。「いまだ多くのメディアが放射能の不安をかき立てる中で、無責任に『戻る』とは言いたくない」。まずは4月に始まる春季リーグ戦で全力を尽くし、散り散りになった古里の仲間を励まそうと考えている。


2017年03月11日土曜日


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