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<人材マッチング>現場に頼れる「右腕」

会社の応接室に設置したペレットストーブの調子を確かめる長谷川社長(左)と溝渕さん=3月16日、岩手県陸前高田市

 直面する課題と技術、仕組みが結び付き、新しい価値を生む。イノベーションの端緒が被災地にあった。革新をもたらすCSRが復興を後押しする。(「被災地と企業」取材班)

◎トモノミクス 被災地と企業[33]第6部 革新(5・完)ささえる

 東日本大震災の被災地に送り込まれた228人が、復興をけん引する地域経済人の参謀についた。「右腕プログラム」。NPO法人「ETIC.」(エティック、東京)が構築した人材マッチングの進化形だ。
 長谷川建設(岩手県陸前高田市)社員の溝渕康三郎さん(34)。同社のペレットストーブ事業を担当する。間伐材を砕いて固めた燃料のペレットの配達や展示会での実演、勉強会の開催など営業から事務まで対応する。
 コーヒーチェーンを全国展開する企業の元社員。再生エネルギーの浸透に力を注ぐ長谷川順一社長(36)に共感し2013年、右腕プログラムに応募した。
 溝渕さんは「社長の構想を実際に動かすのが自分の役割。若手リーダーのそばで働くのは人生道場のようだ」と語る。
 1年間の派遣期間中、ペレットストーブの普及に奔走した。長谷川建設の新事業を支える人材として1年後、直接雇用された。
 エティックは1993年、起業家を目指す首都圏の学生を中心につくったサークルが母体だ。震災直後、被災地では復興に尽力する地場の企業や地域団体の若手リーダーに仕事や情報が集中した。事業を回すにはブレーンが必要と判断し「右腕」の仕組みを作った。
 11年5月〜16年10月、137の案件に228人を派遣した。30、40代の企業人の応募が多かったという。
 担当の押切真千亜(まちあ)さん(40)は「やりがいのある現場を提供すれば、キャリアを積んだ人材が被災地に入っていく」と成果を語る。
 被災地で活躍する起業家支援にも力を入れた。
 アロマせっけんを宮城県女川町で製造販売する三陸石鹸(せっけん)工房KURIYAの運営会社アイローカル。東京から移住した厨(くりや)勝義さん(38)が14年起業した。ここにも「右腕」がいる。
 化粧品通販会社出身の河村翔さん(34)は16年3月、「経済性と社会性を両立できる」とアイローカルへの派遣を志願した。「社長はプレゼンや資金調達を担い、自分は事業計画を詰める」と役割を自覚する。
 厨社長は「河村さんには化粧品業界の知識と経験があり、私のアイデアが王道なのか奇策なのかを判断してくれる」と頼りにする。
 プログラムは16年10月に募集を終了した。精神は新たな仕組み「ローカルベンチャー構想」に引き継がれた。エティックが釜石や石巻など8市町村と連携。「右腕」のノウハウを生かし、首都圏から人材を送り、民間投資を呼び込む。
 「右腕」参加者のうち約100人が被災地で起業したり、派遣先地域に定着したりして地域経済に貢献する。人材マッチングのイノベーション(革新)が、新たな復興CSR(企業の社会的責任)を覚醒させる。
(「被災地と企業」取材班)=第7部は4月下旬に掲載。過去の記事は河北新報オンラインニュースで閲覧できます。
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 企業の社会的責任(CSR)。21世紀、世界の企業に浸透し始めた概念だ。東日本大震災後、東北の被災地には無数の企業が足を踏み入れ、試行錯誤を重ねた。艱難(かんなん)の地へ、生活の糧を、癒やしを、希望を。企業を突き動かした衝動は何だったのだろう。あれから間もなく6年。CSRを足掛かりに、あの日に返って経済社会を展望する。見えてくる明日を、私たちは「トモノミクス」と呼ぶ。


2017年04月07日金曜日


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