岩手のニュース

<再生に挑む>三陸産価値高め世界へ

加工場で作業を見守る下苧坪社長(左)
下苧坪社長が祖父の家で見つけた写真

◎ひろの屋(岩手県洋野町)起業から10ヵ月後に震災

 被災は起業からわずか10カ月後のことだった。
 岩手県洋野町の水産加工卸「ひろの屋」。2010年5月に下苧坪之典(したうつぼゆきのり)社長(36)がサラリーマンを辞めて起業した。
 「北三陸はウニもワカメも高品質。地域の大切な資源にきちんと価値を付けて売り出したい」。新たなビジネスモデルを構築しようと、元々の家業だった水産加工の仕事を引き継ぐ形で会社を設立した。
 震災は、全ての計画を奪ってしまう。倉庫にあったウニは全て流され、商売どころではなくなった。「まずは困っている人を助けないと」。最初の3カ月は炊き出しのボランティア活動に明け暮れた。
 夏には天然物のワカメが集まり始めたが、販路は断たれている。百貨店の物産展を巡り歩き、販売を続けた。「当時はとにかく売ることで精いっぱい。ビジネスを立ち上げようという思いは忘れかけていた」

<曽祖父が刺激に>
 祖父の家で、1枚のセピア色の写真を見つけたのはその頃のことだ。
 70年ほど前の撮影だという。中央の看板には「製品三陸一 下苧坪乾鮑(かんぽう)加工所」の文字。ずらりと並ぶ干しアワビを前に従業員が誇らしげに立つ。その中に下苧坪社長の曽祖父で創業者の千松さんが写っている。
 明治末期の創業。当時から品質の高さを買われ、香港まで輸出されていた。「終戦直後の写真なのに、大型トラックが映ってるでしょう。三陸でもダントツの規模で商売をしていたらしい」(下苧坪社長)
 曽祖父の姿に自分の血筋を感じた。「ひいじいちゃんは100年前から香港でアワビを売り、命懸けで金を持ち帰り生産者に還元してきた。明治にできたことが、なぜ今できないのか」。目が覚めた思いがした。

<ブランド化急ぐ>
 ワカメもウニもアワビも品質には自信がある。だが、付加価値を付けられず長い間買いたたかれてきた。「売れればいいでは駄目。良いものを高く買ってもらう」(下苧坪社長)。まずはブランド化の作業を急いだ。
 震災を機に、大企業が次々と被災地支援に乗り出していた。ブランド化の資金はキリンの絆プロジェクトから提供を受けた。加工場は三菱商事の投資で16年7月に完成した。
 ブランド名は「北三陸ファクトリー」。地元漁協や漁師、加工業者、自治体の協力を得て、既に台湾や香港、米国、イタリアまで販路を広げている。
 震災から丸6年。「今が本当のスタート地点」。下苧坪社長の言葉に力がこもる。「震災は過疎が進む地域の10年後の未来を一気にもたらした。よほどのスピード感を持ってやらないと生き残れない」
 初めての本格的な出荷シーズンを前に、決意を新たにしている。(安住健郎)


関連ページ: 岩手 経済

2017年04月22日土曜日


先頭に戻る