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<熊本の教訓>安眠確保 機転が奏功

避難所の駐車場で車中泊する男性。震災関連死の中にはエコノミークラス症候群を疑われる事例があった=2016年5月11日、熊本県益城町

 熊本地震の発生から1年が過ぎた。混乱を極めた被災地で、企業は支援活動の中核を担った。東日本大震災で芽生えた復興CSR(企業の社会的責任)。その意義は重みを増し、九州で生きた。(「被災地と企業」取材班)

◎トモノミクス 被災地と企業[35]第7部 関連死(中)のがれる

 大災害を命からがら逃げ延びた先に、過酷な避難生活が待ち受ける。昨年4月の熊本地震の際、避難者の安息と安眠に貢献したのは企業の機転と行動だった。
 本震が起きた日の夜、熊本県南阿蘇村の道の駅「あそ望(ぼう)の郷(さと) くぎの」の駐車場は約300台の車で埋まった。「余震が続き、家で寝るのが怖い」「小さな子どもが一緒で避難所に居づらい」。多くの住民が自宅を離れ、駐車場を拠点に不安な避難生活を送った。
 熊本地震でクローズアップされた車中泊避難。アウトドア用品メーカー、モンベル(大阪市)の動きは速かった。山岳用などのテントや寝袋をかき集め、本震翌日、道の駅隣の同社店舗で無料貸し出しを始めた。
 4月の朝晩は南国でも冷える。親子4人で車中泊をした会社員江藤公次さん(51)は「車内は寒く、体は痛くなった。テントを借りて、初めて足を伸ばして寝られた」と感謝する。

 車中泊はエコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓(そくせん)症)の発症を招く。熊本地震の犠牲者は熊本、大分両県で225人。直接死50人に対し、昨年6月の豪雨による死者5人を除く170人が避難生活で体調を崩すなどした関連死に認定され、このうち40人以上が車中泊経験者と言われる。
 同社提供のテントは262張、寝袋は625枚に上った。モンベル広報部長代理の佐藤和志さん(54)は「当社だからできる支援があった。アウトドアで培った経験や知識、機能的な道具が生きた」と振り返る。
 アウトドア用品と並び、被災地で重宝されたのは段ボール製の簡易ベッドだ。
 開発したのは段ボール箱製造の「Jパックス」(大阪府)。水谷嘉浩社長(46)が東日本大震災直後、被災地で相次ぐ避難者の低体温症を防ごうと考案した。
 設計図を公開し、各地の段ボール会社が製作できるようにした。熊本地震では同業他社と協力し、計約1700床を届けた。
 「困っている人がいて自分に解決できる手段がある。手を差し伸べるのは当然」と水谷社長は言う。

 苦い経験がある。東日本大震災やその後の災害で、ベッドの提供は「前例がない」と多くの自治体に断られた。震災後、水谷社長は同業他社や業界団体と協力。全国200以上の市町村、19道府県と協定を結び、迅速な供給体制を整えた。
 避難所・避難生活学会の創設にも関わり、避難所での雑魚寝による2次被害防止に取り組む。石巻赤十字病院(石巻市)呼吸器外科部長で同学会理事の植田信策さん(53)は「車中泊はもちろん、雑魚寝する避難所でも発症リスクが高まる。簡易ベッドを有効活用すべきだ」と提唱する。
 災害で助かった命が避難先で果てる悲劇をなくす。企業が本業を駆使し、願いを形に変えていく。


2017年05月01日月曜日


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