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<米国の町から>貧困地区「食」から光

高級スーパーが住民の食生活改善をサポートする。特売品のリンゴの前で談笑する(左から)シュワルツさん、ラガードさん、ワイドさん=4月18日、米ニューオーリンズ市のホールフーズ・マーケットのブロード店

◎トモノミクス 被災地と企業[37]第8部(上)のりだす/コミュニティー再生

 大災害からの復興の先にある企業の使命は何か。全米史上最悪の自然災害となった2005年の超巨大ハリケーン「カトリーナ」=?=から間もなく12年。復興CSR(企業の社会的責任)が街を生まれ変わらせつつある米ルイジアナ州ニューオーリンズ市から報告する。
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 カトリーナがあぶり出した米社会のひずみ。ニューオーリンズ市内で「食の砂漠」と言われた貧困地区の課題解決に、全米屈指の高級スーパーが乗り出した。
 北米などで約460店舗を展開する「ホールフーズ・マーケット」。14年2月、同市のブロード地区に新店舗をオープンさせた。
 入り口には野菜や果物の特売品が並ぶ。有機食材などは買い求めやすいよう少量でセット販売する。料理教室を定期的に開き、客の食生活改善にも取り組む。
 小ぶりな店舗は複合施設の核テナントだ。職業訓練校や調理学校、若者支援施設が入居する。一等地に大型店を構え、白人の中上流層をターゲットにする同社の戦略とは一線を画す。
 「コミュニティーを支援する役割を背負っている点が、他の店舗と違う特色。自然食品など独自の資源を生かし、住民の健康づくりを支えるのが使命だ」
 ブロード店リーダーのネイキア・ワイドさん(42)が強調したのはCSRだ。

 食を通した健康増進に力を注ぐのには理由がある。
 被災前、黒人が8割を占めた地区の平均寿命は58歳。通り1本隔てた中流層の地区より20歳近く短い。01年にスーパーが閉店し、一帯の食の貧困は深まった。
 そこをカトリーナが襲う。生鮮品の入手は一層難しくなった。主食はファストフードやスナック。肥満や糖尿病がまん延していた。
 ホールフーズ誘致を実現させたのはNPOだった。
 元市職員ジェフリー・シュワルツさん(35)が09年に創設した。「食から地域を変えていく。深刻な健康問題を改善しなければ、本当の復興はない」。NPOの使命は地区再生の一本。被災前の姿には戻さないという決意がみなぎる。
 ホールフーズにも思惑はあった。富裕層に的を絞った販売戦略は頭打ち気味。「ホール・ペイチェック(給料全部を持っていかれる)」とやゆされるイメージを払拭(ふっしょく)しようと、地域密着を模索していた。

 今、ブロード店は売り場面積比の販売額が南部4州でトップに立つ。80人で始まった従業員は135人。地元採用が8割を占める。
 同じ建物にある職業訓練校の卒業生も6人雇う。その一人でレジ係のアンドレアン・ラガードさん(26)は「私もスナック中心の食生活を改め、今では野菜や魚がお気に入り」と笑う。
 地区は一変した。復旧作業員が移り住むなどし、住民は黒人4割、中南米2割、アジア2割と多様性を増した。地元出身のワイドさんは「古里は大きく変わっている。いつも友達と地域の未来を語り合っている」と目を輝かせた。
 ホールフーズはブロード店を地域連携のモデルに据える。買い物難民を救い、食生活改善に尽くす。被災地で生まれた挑戦は、全米に広がる可能性を秘める。(「被災地と企業」取材班)

[カトリーナ]2005年8月29日に米南部に上陸。堤防が決壊して大洪水となり、避難民約200万人、死者約1800人に上った。ルイジアナ州最大の都市ニューオーリンズは80%が冠水した。被害総額は450億ドル(約5兆円)。米政府は1140億ドル(約12兆8000億円)の復興予算を組んだ。


2017年05月13日土曜日


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