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<難病患者と家族>第三者の存在 気持ち楽に

一歩さん(左)や淑子さんに出来上がった工作を見せる子どもたち=4月下旬、一関市中里市民センター

 宮城県立こども病院(仙台市青葉区)に入院中の難病の三男(1)の口や鼻を手でふさいで殺そうとしたとして、母親(42)が昨年11月、殺人未遂容疑で逮捕された。母親は約10年前、同じ遺伝性の難病で次男を亡くしていた。介護の負担、孤立、絶望…。仙台地裁で18日に開かれる母親の裁判員裁判初公判を前に、難病患者を取り巻く現状を追った。(報道部・千葉淳一)

◎届かなかったSOS(中)支え合い

<失う恐怖>
 卓球やバドミントン、工作に興じる子どもたちの笑い声に包まれた一関市中里市民センターのホールに、同市中里の千葉一歩(いっぽ)さん(27)が週1回、指導員として通って7カ月が過ぎた。
 「柔らかい手だね。一歩さん、工作できたよ」。作品を作り終えた子どもたちが駆け寄って声を掛けるが、一歩さんはほとんど動かない。
 一歩さんは先天性の遺伝子異常などによる指定難病を患い、車いす生活を送る。目は常に閉じたまま。気管を切開したため、声を出せないが、「放課後子ども教室」に母親の淑子さん(55)と参加し、時給800円の手当を得ている。
 「子どもたちに人をいたわる気持ちが見え始めた」。こう喜ぶ市民センター所長代理の斉藤裕美さん(52)は「一歩さんとの交流を通して子どもたちが多様性を学び、差別や偏見のない社会につながれば」と願う。
 一歩さんは以前は人と会うと拍手で応え、笑い声を上げることができた。19歳の時に脳出血で体調が一変。淑子さんは「当時は死を覚悟した」と振り返る。
 重い障害のある子どもを持つ淑子さんら母親6人が1997年4月、「ぽけっとの会」を結成した。この20年で5人の子どもが亡くなった。
 子を失った母親たちは心理的に不安定になり、医療関係者に八つ当たりしたり、自らを責め続けたり。やり場のない感情を目の当たりにしてきた。
 愛する子どもを失う恐怖は同じ−。難病の三男(1)に手を掛けようとした仙台市の母親(42)は約10年前、同じ病気で次男を亡くしていた。
 淑子さんは「やったことは悪いが、死の記憶がよみがえり、心のバランスを崩してしまったのかもしれない」と推し量る。

<初の納税>
 同じ境遇の母親たち以上に、支えや励ましとなるのが第三者の存在という。ぽけっとの会の活動は約30人の登録ボランティアと約230人の賛助会員が支えている。
 「かわいいね」「頑張る姿に涙が出たよ」。支援者らから声を掛けられるたび、淑子さんは「私だけの子育てじゃない」と気持ちが楽になるという。
 1月下旬、一歩さんの元に昨年の源泉徴収票が届いた。指導手当4800円から270円の所得税が引かれていた。生まれて初めての納税に、淑子さんは「一歩の存在が社会に認められた証し」と受け止めた。
 淑子さんは一歩さんが手にした指導員として初めての手当でスティックケーキを買い、主治医や通所施設の職員ら約40人にプレゼントした。「ありがとう」のメッセージを添えて。

<指定難病>2015年1月に施行された難病医療法に基づき、厚労相が指定する。難病の4条件である(1)原因不明(2)治療法が未確立(3)希少な疾病(4)長期療養が必要−を満たし、(5)患者数が人口の0.1%程度以下(6)診断基準が確立−が条件。指定難病は4月現在で330あり、東北6県の医療費助成受給者数は7万人を超す。


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2017年05月15日月曜日


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