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<難病患者と家族>SNS 心の防波堤

栄養を送る管を確かめる希海さん。SNSをチェックするため、スマホは常に手元に置いてある

 宮城県立こども病院(仙台市青葉区)に入院中の難病の三男(1)の口や鼻を手でふさいで殺そうとしたとして、母親(42)が昨年11月、殺人未遂容疑で逮捕された。母親は約10年前、同じ遺伝性の難病で次男を亡くしていた。介護の負担、孤立、絶望…。仙台地裁で18日に開かれる母親の裁判員裁判初公判を前に、難病患者を取り巻く現状を追った。(報道部・千葉淳一)

◎届かなかったSOS(上)二重写し

<死を意識>
 「娘と死のうと思ったことは何万回もある。これからだって(逮捕された母親と)同じことをする可能性はゼロではない」
 盛岡市の石川希海さん(42)=仮名=は、殺人未遂罪に問われた同世代の母親に自らを重ね合わせる。
 長女(2)は生後4カ月で、遺伝子異常などが原因の「コルネリア・デランゲ症候群」と診断された。重度の難聴や知的障害、免疫不全を患う。飲み込む力が弱く、胃ろうで栄養を取る。
 入院生活は約6カ月間に及んだ。当初は病気を受け止められず、生後約2カ月で復職した。希海さんは「仕事の間だけ、現実を忘れることができた」と振り返る。
 面会の帰り道、岩手医大付属病院近くを流れる中津川に架かる橋を渡る。「先が見えない」。川面を見ながら、すすり泣くこともあった。
 帰宅すると甘えたい盛りの長男(5)が駆け寄ってくる。消毒液でガサガサに荒れた手で抱き上げ、無理やり笑顔をつくった。
 長女の退院に合わせ、仕事を辞めた。「再び入院させない」「この子を死なせない」と無我夢中だった。難病児を抱える家族は身近に見つからず、公的支援の情報にたどり着くのに時間がかかった。
 同じ境遇の母親たちのブログを見つけてから、少しずつ事態が好転した。病名が判明した後、患者家族の全国組織に加わった。事務局や母親たちからLINE(ライン)やツイッターでアドバイスを受け、医療費助成など公的支援の手続きを乗り切った。

<定員5人>
 24時間付きっきりの生活を送る患者家族にとって、生命線は一時預かりだ。盛岡市にある岩手県内の療育拠点「県立療育センター」は、最大4泊5日の短期入所を受け入れている。ただ定員は5人。日帰りの一時預かりはわずか3人にとどまる。
 申請は希望日の10日前からできるが、「受け付け開始直後に定員が埋まる」(同センター)状況が続く。患者家族らが「プラチナチケット」と呼ぶゆえんでもある。
 希海さんは「事件を起こした母親のSOSに周囲が気付いてあげられれば、状況は違っていたかもしれない」と推し量る。
 常にスマートフォンを手放さない希海さん。難病児を抱える母親たちをつなぐSNS(会員制交流サイト)は生命線であり、一線を越えない心の防波堤でもある。

<コルネリア・デランゲ症候群>厚労相が指定する722の小児慢性特定疾病の一つ。先天性の遺伝子変化を伴い、成長に時間がかかる。小さな手指、長くカールしたまつげなど特徴的な容姿を示すことが多い。成人を含めた患者数は全国に約4000人いるとされる。


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2017年05月14日日曜日


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