福島のニュース

<CSRの陰>苦境の福島 食い物に

原発事故の影響で無人となった商店街と、避難区域で野生化した牛、「放射能が消える水」の検査結果報告書の一部のコラージュ

 東日本大震災と原発事故は、復興CSR(企業の社会的責任)の対極にある、企業の利己、欲望、保身といった負の姿をもあぶり出した。大災害で顕在化した共感なき振る舞い。それもまた、被災地の現実だった。(「被災地と企業」取材班)

◎トモノミクス 被災地と企業[40]第9部(1)むらがる/売り込み

 子どもたちのために。地域の未来のために。5枚の企画書に壮大な構想と美辞麗句が躍る。植物工場、バイオ発電、温泉施設…。
 「新年度予算に計上し、委託事業を発注してほしい。補正でも何でもいい」
 東京電力福島第1原発事故で一時、全町避難した福島県富岡町。同町の郡山支所に1月中旬、福島市の農業法人と東京の環境系企業の男性社員ら数人が現れ、要望書を提出した。数週間前に続く売り込みだった。
 プランの設計に2カ月、予算470万円。支所長の菅野利行さん(59)は一読し、思わず声を荒らげた。
 「たった2回の説明で金を出す人がいるか」
 一部地域を除く町の避難指示解除を4月に控え、職員や町民の間には希望と不安が交錯していた。そこに舞い込んだ裏付けも根拠も乏しい事業。菅野さんの怒りは収まらなかった。

 農業法人の男性社員は取材に「復興予算が余っていると聞いた。早め早めがいいと思い、すぐに提案した」と釈明した。
 この2社は同町を訪れる前、県内の別の自治体に事業を持ち掛け、断られたという。内容は同町に見せた計画とは別物だった。
 菅野さんは「1月は予算編成の最終盤。引っ掛かれば、どの自治体でもよかったのだろう」と苦々しく振り返った。
 膨大な復興予算に群がる有象無象。福島県内には、除染に絡む真偽不明の売り込みが相次いだ。
 「この水を飲めば放射能がなくなる。被ばくした牛で実験させてほしい」
 富岡町役場の出先機関。イオンや鉱物で処理したという特殊な水を販売するメーカーの担当者が熱弁を振るった。
 信じ難いデータを持っていた。県内の危険区域で被ばくした同社の従業員が水を飲むと、体内の放射性物質が低減したという。

 町によると、話があったのは2011年秋。全町避難が続き、出口の見えないトンネルの中、関係者はわらにもすがる思いだった。
 町は一部の牛の管理を任せた。産業振興課係長だった黒沢真也さん(50)は「農家も役場も『何とか牛を生かしたい』という気持ちがあった」と打ち明ける。
 程なく、ほころびが見える。牛が餌を十分食べさせられずにやせ細ったり、逃げ出したりしているとの話を耳にした。不信感を抱いた黒沢さんは、営業担当者に何度も連絡したが音沙汰がない。会社に電話すると「海外出張に行っている」と言われた。結局、実験は数カ月間で終わった。
 同社の男性社長は取材に対し、「餌はしっかり与えていたし、死んだ牛はいなかった。実験が成功したので引き揚げただけだ」と真っ向から反論した。


2017年05月29日月曜日


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