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<8割帰還>顔の見える関係が大切

街頭で安全運転を呼び掛ける安心・安全ネットワーク会議のメンバー企業関係者ら=福島県広野町

 東京電力福島第1原発事故で一時、全町避難した福島県広野町は今春、帰町者が人口の79.1%(11日現在)、約8割に達した。町は3000人以上の作業員が暮らす復興の拠点にもなっている。周辺の原発事故被災地に先行して、新たな再生の段階に入った広野の現状を報告する。(いわき支局・佐藤崇)

◎福島・広野からの報告(下)安全と安心

 緑色のジャンパー姿の企業関係者が交差点に立つ。「速度注意」などと書かれたプレートを手に、行き交う工事車両ににらみを利かせる。福島県広野町で月1回、続けられている安全運転を呼び掛ける活動だ。

<作業員が3200人>
 東京電力福島第1原発事故後の帰還者が人口の8割、約3900人に達した広野町。町内にはそれに匹敵する約3200人の作業員が暮らす。廃炉や除染、復興事業に携わっている。
 「交通事故が増加しないか」「見ず知らずの住人が多くて心配だ」
 高まった不安の声を受け、町は2014年10月、町内に宿舎や拠点を置く企業と「安心・安全ネットワーク会議」を設置。街頭活動などに当たってきた。
 企業活動にも地域の理解は欠かせない。会議の副会長を務める東電福島復興本社の中野政仁広野町グループマネージャーは「不安解消に向け、やれることはやりたい。それが参加企業共通の思い」と強調する。
 かつてあった「ごみの指定日や時間を守らない」といった苦情やあつれきは、少なくなった。福島県警双葉署によると、16年の町内の刑法犯認知件数は27件。東日本大震災前の10年(29件)を下回る。
 それでも「住民はまだまだ安心感を得てはいない」(警察関係者)。警察には「コンビニ前で子どもが作業員に話し掛けられた」といった相談が寄せられる。
 高校3年の娘を持つ母親(55)は「町内では娘を1人で歩かせないようにしている」と打ち明ける。

<一緒に祭りを>
 町民の帰還が進んだことで、町や企業は「新たに戻った町民が懸念を覚え、不安が再び高まりかねない」と危惧する。
 このため会議は6月、町内の事務所や宿舎に社名と連絡先の電話番号を記した看板の掲示を始める。まずは元請け企業から「どこの誰か」を明示し、不安軽減を目指す。
 長丁場となる廃炉作業を見据え、本格的に「顔の見える関係」をつくる試みも動きだした。町は4月、会議の集まりで、町内4地区の祭り再開への協力を企業に求めた。
 「祭りには人と人を融和させる力がある。地域はマンパワー不足。互いに汗をかき、共生を図りたい」。町復興企画課の中津弘文課長がこう訴えた。

<企業との共生>
 各地区の祭りは以前から人手不足で存続の危機にあった。そこに東日本大震災が追い打ちをかけた。
 下浅見川地区では鹿嶋神社の浜下り神事の再開めどが立たない。若者がみこしを担いで練り歩く神事で、海岸でみそぎを意味する「潮垢離(しおごり)」を行ってきた。
 「津波で被災して住民が減り、人手がないと再開できない」。氏子総代の根本賢仁さん(70)は企業の参加に期待を寄せる。
 根本さんは交流イベントに取り組むNPO法人の理事長も務める。住民との信頼関係構築へ、イベントに作業員らも呼び込む仕掛けづくりを探っている。
 「今後のまちづくりに町内企業との共存共生は不可欠だ」。根本さんが展望する地域の姿は、広野町以外の原発被災地にも通じる。

<メモ>福島県広野町は町独自に2012年3月まで全町避難したが、国の避難指示はなく、建設会社などがいち早く拠点を置いた。町によると、町内に事務所を置く企業は今年2月時点で69社。民宿・旅館や企業の宿舎に滞在するのは約3200人。約1400人が事務所などで働く。個人宅を借りたり、集合住宅を契約したりしている企業も多いとされる。

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2017年05月31日水曜日


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