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<東北の道しるべ>山から始まる地域循環社会

間伐したマツをトラックに載せる八瀬・森の救援隊のメンバー=5月17日、気仙沼市八瀬地区
気仙沼地域エネルギー開発を巡る循環のイメージ
間伐した木を運び出す作業道の付け方を学んだ研修会。自伐型林業への関心が高まっている=5月16日、北上市黒岩地区

◎「自伐型林業」に高まる関心

 東日本大震災を契機に、「自伐型林業」への関心が東北でも高まっている。山林所有者や地域住民が自ら小型機械を手に間伐を繰り返し、100年を超える良質な大樹を育てる環境保全型の林業。大型の林業機械で全ての木を伐採し、再造林してまた皆伐する現行林業とは一線を画す。間伐材の売買に地域通貨を導入し、山の価値を地域全体に波及させる動きも広がる。人、物、財が循環する定常社会「東北スタンダード」の実現が、山から始まろうとしている。

◎低コスト 稼ぎは副収入

 気仙沼市八瀬(やっせ)地区の山林で、男性3人が間伐したマツの丸太にワイヤを巻き、小型運搬車を使ってトラックの荷台に載せた。
 3人は地区住民でつくる「八瀬・森の救援隊」のメンバー。2014年の結成以来、地区の市有林の管理を請け負う。「山守」として毎日のように山に入り、マツやスギの間伐、搬出、林道敷設を行う「自伐型林業」に取り組んでいる。
 総勢9人のメンバーに林業の専業従事者はいない。農家や鉄工場経営とそれぞれ別の顔を持つ。山守としての稼ぎは、あくまで副収入だ。
 扱う機具はチェーンソーや軽トラックといった小回りの利くものばかり。救援隊代表の吉田実さん(70)は「大がかりでない方が使いこなしやすく、経費も少ない」と話す。
 港町として知られる気仙沼だが、山林が市面積の7割を占める。かつては製材業も盛んだったが木材価格の低迷が続き、多くは間伐されずに放置されてきた。
 救援隊の吉田幸男さん(67)は「適度の間伐が土砂崩れの起きにくい保水力のある山を造る。それは結局、下流の自分たちの里を水害から守ることになる」と強調する。

◎エネも「通貨」も地産地消

 救援隊が切り出した間伐材は、気仙沼地域エネルギー開発(気仙沼市)が買い取る。木質バイオマスのコージェネレーション(熱電併給)プラントで使うためだ。
 間伐材の買い取り価格は1トン当たり6000円。林業者により多くの出荷を促すため、相場の2倍にした。
 代金の半分は現金、残り半分は同社が発行する地域通貨「リネリア」で支払う。エネルギーの地産地消に加え、お金が地域内で回ることを狙った。
 リネリアを本格的に導入したのは13年4月。市内の飲食店や食料品店など約160店で使え、16年度までに累計約1400万円分が発行された。
 社長の高橋正樹さん(54)は「せっかく払ったお金が市外で使われるのは面白くない。山のためにも、林業者のためにも、地域のためにもなる循環の仕組みをつくりたかった」と話す。
 高橋さんが同社を設立したのは12年。エネルギー供給が途絶えた東日本大震災を経験して、一極集中の供給体制から脱却する必要性を痛感した。
 荒れた山を整備しつつ、エネルギーを自給自足する手だてとして着目したのが自伐型林業だった。担い手を増やすため、会社設立から半年後には「森のアカデミー」と名付けた自伐林家育成塾もつくった。救援隊のメンバーもそこで研修を受けた。
 運営するプラントは、震災後に始まった再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)に基づいて売電し、廃熱は近隣のホテル2軒に有償で供給している。
 NPO法人自伐型林業推進協会(東京)代表理事の中嶋健造さん(55)は「間伐材の買い取りに地域通貨が発行される例は全国にあるが、経済活動の一環として本格的に機能させようとするのはまれだ」と取り組みを高く評価する。

◎参加続々 雇用生み 自立促す

 5月中旬、北上市郊外の杉林に自伐林家を目指す人たちが集まった。地元の環境団体が参加を呼び掛けた自伐型林業の講習会。先駆けとして知られる橋本光治さん(71)=徳島県=を招き、作業用林道の付け方を学んだ。
 自伐型林業は東北でも徐々に広がりつつある。
 担い手としてNPO法人吉里吉里国(岩手県大槌町)や新北菱林産(八戸市)など10以上の団体や企業が取り組む。気仙沼市、陸前高田市、福島県南会津町などは関連予算を計上して、自伐型林業を支える。
 気仙沼地域エネルギー開発など自伐型林業を実践する4団体は、東北・広域森林マネジメント機構(仙台市)を16年末に発足させ、東北各地で自伐林家を育てる研修会を開催している。
 機構事務局長の三木真冴(しんご)さん(31)は「震災以降、被災3県を中心に、山林を一大資源と捉えて地域の自立や雇用に生かそうという機運が高まっている」と力説する。
 やみくもに成長を追い求めない社会のありようの一つが、山にあった。

【自伐型林業】森林組合や林業会社に委託せず、山林所有者や地域住民が施業を行う。一つの山林を継続的に経営、管理、施業するため「山守型」とも呼ばれる。高性能林業機械や大型重機は使わない。幅2メートル程度の小さな作業道を確保し、チェーンソーを手に少人数で間伐を繰り返す。間伐材の出荷で毎年収入を得ながら高樹齢の木を育てる。


2017年06月06日火曜日


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