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<杜の都のチャレン人>「本物」追求感性磨く

新たな布を用意し、掛け軸を仕立て直す吉岡さん。絵の雰囲気を生かす布の取り合わせも、表具師の大切な仕事だ=青葉区立町

◎技能グランプリ表具部門で優勝した吉岡宏一さん(51)

 与えられた9時間半、襖(ふすま)、屏風(びょうぶ)、掛け軸の三つを組み合わせた課題作品だけに向き合った。時間のことばかり気にしていた2年前とは、意識が変わっていた。「とにかく丁寧に。仕上がりだけは誰にも負けたくなかった」
 今年2月、静岡市で開かれた第29回技能グランプリ表具部門で優勝した。初出場した4年前は3位。優勝を目指した2年前は賞にかすりもしなかった。今回は、紙が重なる部分を丹念にならすなど、時間がかかる作業もおろそかにしなかったことが実を結んだ。
 定禅寺通(仙台市青葉区)などに工房を構える表具店の5代目。大学卒業後は土木関係の仕事に就いたが、父が脳梗塞で倒れ30代半ばでこの道に入った。「何も知らないという自信があり」まずは3年間、宮城県建設技能者訓練協会連合会の高等職業訓練校へ。若い生徒たちに交じり必死に学んだ。
 経験を重ねた今も「まだ何も分かっていない」と口にする。新たな知識や技術、感性の吸収に貪欲。「バランスや色使いは実際に見ないと分からない」と関西の展覧会にも足を運び、博物館で古作が展示されればじっと観察する。
 「手を動かすだけが仕事じゃない。『本物』や背景を知っていれば、仕上げ方をお客さんに提案するときに生きてくるんです」
 ある時、老舗飲食店の襖を張り替える際に試しに一部屋だけ、壁の色に合わせ白地に黄緑の縦じまの紙を使った。少々派手。店主は渋面だったが、後に「評判がいい。冒険も必要かな」と理解してくれた。以来「お任せ」になり「ありがたくて、より良い空間にしようと工夫しています」。
 生活様式の変化に伴い和室は減ったが、むしろ襖などに上質な素材や凝った意匠を求める人が増えた。「こだわりに応える役目をきちんと果たせる、いい職人を育てたい」。自身が学んだ訓練校で後進の指導に力を注ぐ。(ま)

<よしおか・こういち>65年仙台市生まれ、東北学院大経済学部卒。宮城県表具内装業連合会技能士会会長。表装研究団体「以白会」会員として新たな表現を追求する一方、子ども向けワークショップの講師なども務める。青葉区在住。


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2017年06月17日土曜日


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