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<南極見聞録>けがや重病 心悩ます

南極大陸から斜面を伝って降りてきた冷たい風が、海の上の冷たい空気にぶつかって吹き上げられるハイドロリックジャンプという現象です。日の出と重なって、まるで火災が起きているようでした(筆者撮影)
春になると基地周辺の海氷の上をならして臨時の滑走路が造られます。これはドイツ隊が給油のために立ち寄った時の写真。連絡があると、雪上車で燃料を載せたそりを引いて支援に行きます(2013年11月、54次隊で筆者撮影)

 第58次南極地域観測隊に仙台市太白区の外科医大江洋文さん(57)が参加している。過酷な環境の中で任務に励む日々。極地の「今」を伝える。

◎こちら越冬隊 Dr.大江(6)怖いものは?

 昭和基地から国内の学校や教育施設を衛星回線でつないで「南極教室」という催しが行われています。いろいろな質問を頂くのですが、先日は「南極で怖いものは何ですか?」と聞かれました。

<何度か火災発生>
 昔の人はことわざで「地震、雷、火事、おやじ」と表現したものですが、南極ではどうでしょう。
 南極大陸が乗っているプレート(地球の表面を覆っている岩盤)には、周囲に沈み込みがないことから、地震は皆無ではありませんが、少ないといわれています。また、南極は寒いので上昇気流が発生することはなく、従って雷もありません。
 一方、空気が乾燥している上に、水が不自由な南極では火災は恐ろしい災害の一つです。昭和基地でも大きな火事は何度か起こっていますが、幸い死傷者は出ていません。外国基地では基地が全焼したり、複数の隊員が犠牲になったりする悲惨な事例もありました。
 「おやじ」はどうかというと、いかついひげ面や頭をそり上げた、見た目は恐ろしげな隊員はたくさんいますが、みんな心の優しいいい人たちばかりです。もっとも、ことわざにある「おやじ」とは、台風を意味するとの説もあります。

<病院まで4000キロ超>
 冗談はさておき、怖いものは、たぶん、隊員それぞれで違ってくるでしょう。誰にとっても、ブリザードで道に迷ったり、氷の割れ目に落ちたりする自然の脅威は確かに怖いものです。
 でも仕事の関係から言えば、電気担当の隊員でしたら昭和基地の生命線である発電機が止まること、すなわち停電と答えるかもしれません。研究系の隊員であれば、大切なデータを集める観測機械の故障と答えるでしょうか。
 私が一番怖いのは、昭和基地の医務室で対応できない重いけがや病気が発生することです。
 国内にいれば、専門家や設備がたくさんそろっている大きな病院にお願いすることもできます。しかし、昭和基地は日本から1万4000キロ、一番近い陸地からも4000キロ以上離れており、冬の間は飛行機も船も近づけません。
 設備や薬も限られている上に医療スタッフがいないところで医師二人きりで全てに対応しなくてはならないのです。隊員もそのことをよく分かっているので、健康や事故には、十分気を付けています。(第58次南極越冬隊員・医師 大江洋文)


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2017年06月17日土曜日


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