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<復興CSR>日本の課題 解く鍵に

フィッシャーマンの仲間とホヤの成育状況を見る長谷川さん(左)。地域に分け入り、ITと社会課題を結び付け、解決に導く=石巻市の鮫浦湾

◎トモノミクス 被災地と企業[54完]エピローグ はしる/挑戦

 企業と地域が友として願いを育む。小さくても持続する利益を伴って。東日本大震災の被災地、石巻市と共に歩む企業人がいた。
 色鮮やかな魚介類の画像が並ぶ。IT大手のヤフーが運営するサイト「東北エールマーケット」。生産者と消費者を結び、商品購入を被災地の応援に変える。
 考案者の一人が、同社東北共創チームの長谷川琢也さん(40)だ。
 時に、漁にも同行する。自然の怖さや豊かさと向き合う漁師の姿に魅了されている。「嫌いで食べられなかった魚介類をうまいと感じた。感動を誰かに伝えたい」と屈託がない。

 横浜市出身。石巻に移り住んで5年になる。震災直後から被災地に通い、まちを覆った泥と格闘した。
 自分は、ヤフーは、何ができるのか。支援策を模索していたとき、水産業者らが解をもたらしてくれた。
 「物や金の支援はありがたいが、仕事を復活させたい。ヤフーで売れないか」
 基幹産業の水産加工業は震災後、販路を失い、ネット販売に活路を求めた。
 「これこそ、ヤフーがすべき支援だ」
 2011年末、エールマーケットの前身となる通販サイト「復興デパートメント」が始まった。ヤフーは12年7月、石巻市に事務所を開設。長谷川さんは同僚5人と移住し、出品者の開拓や商品に添える記事の取材で現場を訪ね歩いた。
 被災地で暮らせば、地域課題も見えてくる。漁業者の低収入、後継者不足。「現状を変えたいと、もがく若者がいた。会社で培った経験が必要とされた」
 危機感を共有する地元の若手漁師と手を組み、一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン(石巻市)を設立した。ネットをフル活用し、海産物の販路拡大や担い手の育成に取り組む。
 震災前は、ネット通販やオークションの販売促進の責任者だった。売り上げを伸ばすため、商品の大幅値下げをしたこともあった。今は漁業の現状を知り、苦労も経費も分かる。適正価格での販売に徹する。

 ヤフーは12年、ITを使って社会を変革するビジョン「課題解決エンジン」を掲げた。「短期的な利益につながらなくても、正解のない問題に挑み続けることで新たな価値を見いだす。長谷川の挑戦はヤフーの理念を体現する」。上司の須永浩一さん(50)は語る。
 長谷川さんには理想がある。IT企業は東京都心に集中する。現代の富の象徴だ。「ずっと違和感があった。どこでも仕事ができるネット事業こそ地方の課題を解決できる」。長谷川さんの挑戦は実証実験だ。
 「日本を、東北をアップデート(更新)したい。乗り掛かった船。それができるまでは帰れない」
 Tシャツ、ジーパン、スニーカー姿で今日も港町を歩く。3月11日が誕生日。「災後」が始まった日だ。(「被災地と企業」取材班=報道部・藤本貴裕、庄子晃市、高橋公彦、氏家清志)

 艱難(かんなん)の地に希望が芽吹く。CSR(企業の社会的責任)を掲げて復興を支える企業を追い、私たちは被災地を歩いた。本業を駆使し、困難な壁に挑む会社があった。地域に根差し、明日を拓(ひら)こうとする社員がいた。社会的責任に目覚めた企業市民。それは現代の経済社会に変化を生む希望であり、近未来の日本が直面する課題を解く鍵になる。競争より共感を。私益より公益を。トモノミクスが、東北から羽ばたく。


2017年06月28日水曜日


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