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<東北の道しるべ>伝承の里芋 人呼び込む

甚五右ヱ門芋の植え付けをする佐藤さん(左)。畑は秋になると収穫を体験する都会の人でにぎわう=6月13日、山形県真室川町大谷地

 食べ物を作るだけが生産者ではない。買って支えるだけが消費者ではない−。生産と消費の新たな関係を求め、東北の若き農家が奮闘を続ける。受け継いだ伝承野菜の価値を発信し、農村と都市の相互交流をつくりだす。手間暇と安全の価値を認め合い、共に歩む1次産業を模索する。大量生産、大量消費で失った自然と人間の関係回復を託された「通訳者」として、新時代のモデルを切り開く。

◎若き「通訳者」 奮闘続く/山形・真室川 佐藤春樹さん(36)

 麓の集落から山の中を車で5分ほど登ると、視界がぱっと開けた。すり鉢状に田畑が広がり、その間を水路が流れる。
 6月中旬の山形県真室川町大谷地。佐藤春樹さん(36)が、佐藤家だけに伝わる伝承野菜の里芋「甚五右ヱ門芋(じんごえもんいも)」を植えていた。
 元々は祖母(80)が自家用に20株作っていただけの無名の里芋だった。
 「際立つブランドが身近に隠れていた」。佐藤さんは宝物を見つけたような気持ちで栽培を引き継ぎ、先祖にちなんだブランド名を付けて売り出した。10年もたっていない。
 楕円(だえん)形の品種「土垂(どだれ)」の一種とされるが、佐藤家の芋は細長く、粘り気の強い独特の性質を持つ。豊かな湧き水と盆地特有の寒暖差があるこの地で、佐藤家が室町時代ごろから作り続けてきたからだという。
 佐藤さんは「周りから閉ざされた土地で代々育ててきたことで、固有種に変わっていった」と話す。
 毎年収穫量を増やしているのに、山形県内の旅館やホテル、全国各地のレストラン、個人からの注文で完売が続く。ネーミング、味、ストーリーといった芋の個性が人を引きつけ、評判を呼んでいる。
 お客には芋のできる風土から味わってほしくて、都会から畑に足を運んでもらう仕掛けをつくった。毎年秋、収穫を体験したり、芋煮を食べたりする「芋祭」を開く。一昨年は全国から300人も押し寄せた。きちんともてなしたくて、昨年から参加者数を制限した。
 自宅は築150年の古民家を改修。農家民宿「森の家」として宿泊もできる。夕食は地域のおばさんたちが訪れて郷土料理を作るなど、宿泊者が住民と仲良くなる場にもなっている。
 佐藤さんは「都会と交流することで、農村は元気になっていく」と強調する。自慢の里芋を手掛かりに、農村の魅力を広めていく。


2017年07月07日金曜日


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