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<米国流直売経済>高く買い漁業支える

会員に配る魚を確認するニューハンプシャー地域水産のトムリンソンさん(左)=5月26日、米ニューハンプシャー州ポーツマス

 農業の大規模化、産業化への対抗手段として米国で誕生したCSA(地域支援型農業)が進化を続けている。生産者と消費者が直接つながる取引手法は肉類、魚介類、加工食品に広がり、各地で食の生産基盤と地域経済を支える。東日本大震災後、販路の回復に苦しむ被災地に応用できないか。日米教育委員会の2016年度フルブライト奨学生として調査、取材した米国CSAの今を報告する。(報道部・門田一徳)

◎CSA先進国の今(3)派生

<「伝統絶やすな」>
 タラが海から消えた。2008年、米ニューハンプシャー州ポーツマス沖。原因に挙がったのは温暖化と乱獲だった。
 米政府が漁獲規制を敷いて保護に乗り出す。将来に不安を抱いた男たちは次々と船を下りた。100人以上いた沿岸漁業者はたちまち9人に減った。
 ポーツマスは水産業と海軍造船の街として栄えてきた。「伝統を絶やしたくない」。地元住民が漁業者に呼び掛け、13年に協同組合「ニューハンプシャー地域水産」を設立した。
 組合の事業は、生産者が消費者に食材を直接販売するCSA(地域支援型農業)の手法を応用したCSF(地域支援型漁業)。魚を市場より高く買い取り、加工、配送を手掛け、漁業者の存続を目指した。
 漁業者の激減は地元メディアで度々取り上げられた。組合に賛同する住民は着実に増え、会員数は今年6月に650人を超えた。3年前に会員になったジョアン・ハモンドさん(69)は「おいしくて新鮮だし、とにかく地元の漁業を支えたかった」と加入理由を語る。

<上乗せ額を倍増>
 5〜11月の毎週、魚介類を会員に提供する。カレイやアンコウ、スケトウダラなど沿岸で取れる十数種で、漁業者が当番制で漁を担当する。魚種は季節や海の状況で変わるが、事前に魚の特徴やレシピを会員に電子メールで情報提供する。16年は計約24トン分の切り身魚を提供した。
 組合は今、地元の魚市場の取引値に1ポンド(約450グラム)当たり50セント(55円)上乗せして魚を漁業者から買い取っている。組合の上乗せ額は6月まで25セントだった。会員数と売り上げが順調に伸びたことを受けて7月、時期を半年前倒しして倍に引き上げた。
 その理由について、組合委員長のデーモン・フランプトンさん(50)は「漁業者を支えるには十分な金額ではなかった。彼らが持続できなければCSFとは言えないからね」と力を込める。

<日本で成長可能>
 米国でCSFが始まったのは10年ほど前とされる。米国の海産物消費量は1人当たり年間7キロ弱。日本の3分の1に満たないが、消費者との距離の近さを生かした直接販売の手法は、沿岸を中心に広がっている。
 CSFの検索サイト「ローカルキャッチ」には、米国、カナダの約80漁業者・組合が登録する。サケ、アサリ、カキに特化した漁業者もおり、米国内のCSF運営事業者は100以上とも言われる。
 ニューハンプシャー地域水産ゼネラルマネジャーのアンドレア・トムリンソンさん(48)は「日本には魚の食文化が根付いている。日本の地域漁業者が厳しい状況にあるのなら、CSFが成長する環境は整っている」と指摘する。


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2017年08月16日水曜日


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