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<米国流 直売経済>地元産パン 地域潤す

工房を訪れた客にパンの説明をするセンダースさん(右)=5月9日、米ニューヨーク州のイサカ地域

 農業の大規模化、産業化への対抗手段として米国で誕生したCSA(地域支援型農業)が進化を続けている。生産者と消費者が直接つながる取引手法は肉類、魚介類、加工食品に広がり、各地で食の生産基盤と地域経済を支える。東日本大震災後、販路の回復に苦しむ被災地に応用できないか。日米教育委員会の2016年度フルブライト奨学生として調査、取材した米国CSAの今を報告する。(報道部・門田一徳)

◎CSA先進国の今(4)再生

<定期購入者400人>
 毎週金曜の夕方、商業ビルの一角が焼きたてパンの香ばしい匂いに包まれる。帰宅途中の会社員や子連れの母親が、顔をほころばせて列を作る。
 米ニューヨーク州イサカ地域にあるパン工房「ワイド・アウェイク・ベーカリー」の会員への受け渡し会場で、パンは2時間ほどでなくなった。
 店主のステファン・センダースさん(58)は、生産者が消費者に食材を直接販売するCSA(地域支援型農業)の手法を応用して、2011年にパン工房を始めた。
 定期的に購入する会員は約400人。重さは1個1.5ポンド(約680グラム)で、価格はスーパーに並ぶ有機小麦を使ったパンとほぼ同じだ。
 「極めて慎重な性格」と言うセンダースさん。会員に渡すパンの数が事前に分かるし、雨の日や冬の寒い日に売り上げが落ち込む心配もない。受け渡し場所を確保できれば、店を構える必要もない。「起業リスクを減らそうと考え、たどり着いたのがCSAだった」
 話題性もあった。大規模化と効率化の典型とも言われる米国の小麦栽培と製粉業。市場経済にのみ込まれ、どちらも地域との関わりを失っていた。そのため原料、製粉とも地元産のパンはとても珍しかった。

<製粉所 自ら設立>
 仕掛けたのはイサカ地域で有機小麦を生産するソー・オスナーさん(53)だ。
 米国の農業者団体の調査によると、小麦粉1ポンド(約450グラム)当たりの生産者の手取り額は7セント(約8円)を下回る。努力しても、さらなる精励を求められる生産現場。「持続可能な小麦栽培を取り戻したい」。オスナーさんは04年、本格的に有機小麦の栽培を始めた。
 ニューヨーク州にはかつて、町村ごとに数軒の製粉所があったという。今は州に2軒しかない。「地元産小麦を地元の人たちに」。オスナーさんは09年に知人と製粉所を設立した。
 パン製造はセンダースさんに白羽の矢が立った。元々、文化人類学の研究者で、以前は自殺の原因に関する調査をしていた。
 「私たちにとってパンは日本人のコメと同じ。食の根源につながる」と強調。その上で「おいしいパンを食べれば幸せな気持ちになる。創造性や思いやりが生まれ、悲観的にならなくなる」と転職理由を語る。

<「もっと豊かに」>
 ワイド・アウェイク・ベーカリーでは、多い週に1400個のパンを焼き、年間約14トンの地元産小麦を使う。オスナーさんの取り組みを支える小麦生産者は8人に増え、15年は約330トンの小麦粉を販売した。
 「地元の小麦を扱う製粉所、パン工房が各地に増えれば地域の食と経済はもっと豊かになる」。オスナーさんは仕事の傍ら、各地からの視察を積極的に受け入れている。


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2017年08月17日木曜日


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