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<米国流直売経済>NYオフィスに商機

オフィス街への野菜の配送準備をするゼイツさん(右)ら=6月28日、ニューヨーク市

 農業の大規模化、産業化への対抗手段として米国で誕生したCSA(地域支援型農業)が進化を続けている。生産者と消費者が直接つながる取引手法は肉類、魚介類、加工食品に広がり、各地で食の生産基盤と地域経済を支える。東日本大震災後、販路の回復に苦しむ被災地に応用できないか。日米教育委員会の2016年度フルブライト奨学生として調査、取材した米国CSAの今を報告する。(報道部・門田一徳)

◎CSA先進国の今(5)連携

<職員の健康維持>
 ビジネス最先端の街ニューヨーク市で企業と産地がつながった。「職場CSA(地域支援型農業)」。生産者が消費者に直接販売する手法を応用し、オフィスビルに新鮮で安全な有機野菜を定期配送する。
 ソニー・ミュージックエンタテインメント、ブルックリン美術館、大手ネットワーク会社…。近年、多忙な職員の健康を支える福利厚生制度として、企業・団体で導入が進む。
 肥満が社会問題化する米国。野菜食を職員の健康維持に生かそうと、CSAの会費積み立てや支払い補助を打ち出す企業があるという。地域の小規模農場を支援することで、企業のイメージアップになる。
 ニューヨーク市でパーティーなどに料理を提供するケータリング会社「グレートパフォーマンシズ」は、生産者として自社農場を営む。2010年に職場CSAを始めたパイオニア的存在だ。マンハッタンから約200キロ離れた直営の「キャッチキー農場」から週2回、オフィス街に有機野菜を届ける。35企業・団体と契約し、会員数は約830人に上る。

<生活様式に対応>
 生産物の受け渡し場所の主流は住宅地の集会所や教会で、オフィス街で働くニューヨーカーには不便だった。農場側は受け渡しの場所探しに苦労していた。
 「最も便利で現実的な場所を突き詰めた結果がオフィスだった」と職場CSA担当のステファニー・ゼイツさん(34)。一度に数十人規模の会員を獲得できるのも魅力だ。
 都会の生活スタイルに合わせた工夫を凝らす。野菜は持ち帰りに便利な手提げ袋に入れてオフィスに配送。小人数世帯が多いニーズに合わせ、ミニサイズと隔週コースを用意した。
 職場の域を越え、地域とつながるCSAの形もある。ブロードウェー地区のシグニチャー劇場は5年前、職場CSAを導入した。開かれた劇場にしようと、施設内の受け渡し場所を地域住民にも開放する。
 劇場の事業責任者ライ・イーチェンさん(37)は「忙しいときでも階段を下りれば新鮮でおいしい野菜が受け取れる」と職場CSAの魅力を強調。地域住民にとっても、利便性が最大の利点になると説明する。

<会員維持が課題>
 職場CSAの課題は会員数の維持だ。受け渡し場所の企業・団体の職員が野菜を配るため、農場と消費者の直接のつながりは薄くなりがち。「2年目に会員が3分の1に減ったオフィスもあった」とゼイツさんは説明する。キャッチキー農場で収穫体験会などを開き、会員との関係づくりの努力を怠らない。
 CSAとの連携を商機と捉える業界もある。一部のスポーツジム、医療機関、健康保険会社は食習慣との関わりが深いとして着目。野菜の受け渡し場所を施設内に設けたり、料金を割引くなど農場と「ウィンウィン(相互利益)」の事業展開を進めている。


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2017年08月18日金曜日


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