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くりはら地形紀行(2)世界谷地(栗駒山麓)

今月4日に世界谷地で行われたヨシの刈り払い。少しずつ効果が表れているという

 宮城県栗原市には約50万年前の造山運動でできた活火山の栗駒山(1626メートル)や、河川の堆積作用により形成された標高10メートル前後の平野部などさまざまな地形がある。人々は地形を活用したり、土木工事で難点を克服するなどして暮らしてきた。市全域がジオパーク(地形や地質を生かした自然公園)に認定されている栗原市で、地形に根差した人々の営みを取材した。(若柳支局・横山寛)

◎山体崩壊 高層湿原生む

 標高1626メートルの栗駒山の山頂付近に春、馬の姿が浮かび上がる。残雪による自然のアートだ。駒形は田植え時期が訪れたことを知らせる印でもある。黒っぽい山肌に浮かぶ純白の跳ね馬は、農作業の本格化を教えてくれる使者なのだ。
 「雪が駒形に残るのは、主に数万年前に発生した大規模な山体崩壊があった場所。ここから大量の土砂が栗駒山麓の南斜面を下った結果、高層湿原の世界谷地ができた」
 東北学院大の宮城豊彦教授(66)=地形学・自然地理学=はこう説明する。

<高山植物の宝庫>
 土砂は栗駒山麓の大地森(1155メートル)と揚石山(869メートル)の間にある低くくぼんだ鞍部(あんぶ)の水の流れをせき止めた。当時は気温が特に低い氷期のため植物が生育する環境ではなかったが、暖かくなるにつれて周囲に亜寒帯生の針葉樹林が広がった。冷涼な気候のため、枯死した植物は腐らず泥炭となり堆積した結果、湿地が生まれた。
 泥炭層の分析によると、湿地化が始まったのは1万6000年ほど前だったとみられている。
 標高700メートル前後のブナ林に囲まれ、大小八つの湿原(計14.3ヘクタール)が広がる世界谷地では、さまざまな高山植物と出合うことができる。山吹色の花を咲かせるニッコウキスゲの大群生地として知られ、見頃の6月は大勢の観光客でにぎわう。

<乾燥化防ぐ活動>
 こんな高層湿原は近年、乾燥化の危機にさらされている。自然環境の変化で湿原の水が流出しやすくなったことに加え、ヨシが繁殖して湿原植物を圧倒し始めているからだ。
 宮城教授は「木道が今ほど整備されていなかった30年以上前、人が湿原に入り込むことでミズゴケが踏まれて腐り、富栄養化を招いてヨシが侵入し始めた」と指摘する。
 腐らず泥炭になるからこそ湿原が維持され、ニッコウキスゲやワタスゲなど高層湿原特有の植物が群生する。ヨシなどイネ科の植物が取って代われば、湿原ではなく草原だ。
 地元の自然愛護団体によると、木道が整備された今もマナーが悪い観光客は木道を外れて湿原を踏みつけ、写真撮影などに興じているという。
 湿原の環境維持を目指し、県は1999年から自然保護団体に呼び掛けてヨシやササの刈り払いを行っている。ヨシは梅雨時期に最も伸びるので、梅雨明けに実施する。今年は今月4日に栗原市や仙台市などから80人が参加し、鎌などでヨシを根元付近から刈った。
 栗駒山麓で温泉旅館を営み、刈り払いに毎年参加する菅原次男さん(75)は「ここ数年、ヨシの茎が細くなってきた。効果は出ている」と手応えを語る。かつての湿原の姿を取り戻すため、多くの人たちが汗を流す。


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2017年08月21日月曜日


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