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<あなたに伝えたい>成人式の写真は今も離さず

千代子さんの写真を手に語り掛ける政夫さん。その日の出来事を報告するのが日課という=東松島市小野

◎着物姿がきれいで踊りも上手だった妻/武田政夫さん(宮城県東松島市)千代子さんへ

 武田千代子さん=当時(73)= 東松島市野蒜の自宅で夫の政夫さん(81)と2人暮らしだった。東日本大震災の発生後、近くの公民館に政夫さんと避難したが、当時飼っていた犬が心配になって自宅に引き返した。千代子さんは今も行方不明だが、政夫さんは2011年8月、千代子さんの死亡届を出した。

 政夫さん 交際を始めてから約55年もの間、連れ添ってくれた千代子。若い頃は着物姿がとてもきれいで、踊りも上手でした。家業の建設会社を65歳で畳むまで、男に負けないくらいよく働いてくれた。語り尽くせないほどたくさんの思い出がある。毎日幸せだったよ。楽しかったよ。
 千代子は震災の日、突然、目の前からいなくなってしまったね。仮設住宅暮らしを経て、今は災害公営住宅に1人で住んでいるけど、千代子がいない悲しみで、居ても立ってもいられなくなる時があります。
 自宅は津波で流失し、何もかも失いました。千代子の写真だけが心の支え。中でも、千代子が成人式の時に撮った写真は、結婚前から変わらず、今でも財布に入れて肌身離さず持ち歩いています。寂しくて寝られない夜、この写真を見ると、不思議と落ち着いて、よく寝付けます。
 仮設住宅で風呂に入っていた時、俺に語り掛けてくれたね。「お父さん、これからはどんどん外に出て、一人でも多くの命を助けるために、震災の経験を話したらどうですか?」。あれは間違いなく千代子の声だった。そう信じている。
 あの声を聞いた後、「被災体験を語ってほしい」と講演を頼まれるようになったんだ。年に2、3回だけど、宮城県内外で講演活動を続けているよ。講演を聞いた人からは「津波の怖さが伝わった」という感想文や千羽鶴などを贈られて、とても励みになります。千代子に言われた通り、これからも前向きに生きていこうと心に誓っているよ。


2017年08月27日日曜日


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