岩手のニュース

<台風10号豪雨から1年>堤防計画 独自案実る

小本川改修計画を巡って激論を交わす中島地区の住民と県の担当者

 東北に直接上陸し、猛威を振るった台風10号豪雨から30日で1年となる。岩手県内で死者21人、行方不明者2人という人的被害は、行政に依存する「公助」の限界を浮き彫りにした。自らの命を守るために必要な心構えと取り組みとは何か。現場から報告する。(宮古支局・高木大毅)

(下)集落の覚醒

 「中島、この一年」という名の手作りの写真展が今月、岩手県岩泉町の中島地区集会所で開かれた。
 昨年8月30日の台風10号豪雨で氾濫した小本(おもと)川の下流域に位置する中島地区の「この一年」は、81世帯のうち51世帯が全壊、6世帯が大規模半壊するという惨状から始まった。

<若手が中心に>
 町は本州で最も広い町域面積を有する。被災した集落は山あいに点在。通じる道路は土砂崩れで寸断。被災直後の支援活動は、国や県、町が総力を挙げてなお難航を極めた。
 「頼りっ放しでは、いつまでたっても復旧しない」。後に中島地区青年会の設立メンバーとなる千葉慎也さん(29)が、1年前のありさまを振り返る。
 浸水した集会所を千葉さんら若手が片付け、被災5日後には自前の復旧拠点を置いた。支援物資や生活情報が集まり始めると、住民も集まるようになった。
 県は昨年12月、町民に小本川の改修計画を示した。中島地区には集落を堤防で囲む「輪中堤(わじゅうてい)」建設を提案した。「既存堤防のかさ上げでは、堤が決壊したときに被害が拡大する」というのが県の説明だった。

<自ら土地測量>
 ただ、輪中堤を新設するには集落の農地を差し出さなければならず、大雨時には堤防内が水没する可能性がある。県との議論が平行線をたどる中、千葉さんたちは青年会を結成。自ら土地を測量し、過去の浸水記録を調べ代替案を探した。
 集落を通る国道455号をかさ上げすれば、輪中堤と同じ効果を発揮し、同時に避難路も確保できるのではないか。半年間の話し合いの末にまとまった県の改修計画には、中島地区の提案が取り入れられた。
 「集落が自立し、共助の意識を高めるべきではないか」。町も中島地区の住民と同じ思いを抱いていた。
 町は今年7月、町内全6地区に置く自主防災組織の代表を集め、初の災害図上訓練を実施。だが、参加者からはこんなつぶやきが漏れていた。「訓練を1回体験しただけで、リーダーになれと言われても…」
 岩泉地区自主防災協議会長の佐々木保美さん(70)が打ち明ける。寄り合いで台風10号を話題にしても「今まで大丈夫だったから、これからも大丈夫」。これが被害を免れた集落の本音だという。佐々木さんは「自助と共助の強化に取り組むべき自主防災組織の存在意義が浸透せず、実効性のある活動ができていない」と嘆く。
 一方で中島地区の取り組みから何かを学ぼうと、写真展に多くの町民が詰め掛けたのもまた事実だ。掲げられた写真200枚は、集落が目覚め、共助の意識を育んでいった「この一年」を、確かに活写していた。


関連ページ: 岩手 社会

2017年08月28日月曜日


先頭に戻る