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<台風10号豪雨から1年>自宅全壊ながら牛守り抜く

自宅が全壊し、集落が孤立する中で守り抜いた和牛の世話をする合砂さん

 岩手県を中心に大きな被害をもたらした昨年8月の台風10号豪雨から、30日で1年がたつ。岩泉町安家(あっか)の畜産農家合砂(あいしゃ)哲夫さん(61)は自宅が全壊する中、必死の思いで「家族の一員」という牛たちの世話を続けてきた。肩寄せ合って再生への歩みを続ける家族に今月、新しい命が加わった。
 昨年8月30日午後5時半ごろ、自宅を大量の土砂が襲った。近くの折壁川に架かる橋も流失。夜が明けて初めて、集落が孤立したと分かった。
 合砂さんは、自宅と約8キロ離れた牛舎の2カ所で和牛計30頭を飼育している。台風は去ったが、一刻も早く牛たちに餌と水を与えなければならなかった。
 被災から3日後に県の防災ヘリコプターで救助されると、すぐさま牛舎へと向かった。豪雨の中を生き延びた牛たちが、合砂さんを待ちわびるように鳴いた。
 電気と道路が復旧するまでの3週間、合砂さんは自宅と牛舎の道のりを徒歩で往復し、世話を続けた。
 しかし、牧草地は水浸しになり、保管していた牧草ロールも失った。餌がない以上、頭数を減らすしかない。頭数を減らせば、暮らしが成り立たない。
 迷いをかき消してくれたのは同居する長男夫婦だった。哲士(さとし)さん(30)と優喜恵(ゆきえ)さん(31)が、新しい命を授かった。「母子が安心して暮らせる家を建てるんだ」
 一頭も減らさない覚悟を決めた合砂さんの元に匿名の支援物資が届き、宮城県の男性がトラックで稲わらを運んできた。再生に懸ける思いを、多くの人が支えてくれた。
 半ば諦めていた全国和牛能力共進会宮城大会の県最終選考会にも出場できた。結果は惜しくも2位だったが、前回大会より一つ順位を上げた。
 優喜恵さんは8日に無事、長女柚葉(ゆずは)ちゃんを出産。「家族が元気に生活することが一番大事」。台風被害から1年。合砂さんは「家族の一員」が1人増えた喜びをかみしめながら、今日も牛たちの世話をする。


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2017年08月29日火曜日


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