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<福島・鳥獣対策最前線>ねぐらと化す街 奪還へ

イノシシ用のおり型わなに餌をまく駆除隊員。中の支柱などに体が触れるとふたが閉まる=福島県浪江町
福島県浜通りで撮影されたイノシシの親子(県浜地域農業再生研究センター提供)

 東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示が解除された福島県内の地域で、イノシシなどの野生鳥獣が暮らし再生の妨げになっている。避難中に動物のねぐらと化した生活圏をいかに元に戻していくか。駆除と処分、前例のない侵入防止策に挑む最前線を歩いた。(福島第1原発事故取材班)

◎原発被災地の行方(上)駆除

<故郷守る>
 おり型のわなの中、黒い影がせわしなく動き回る。イノシシだ。「入っている」「成体だな」。周囲の空気が張り詰めた。
 福島県浪江町の住宅地近くのあぜ道。民家から100メートルと離れていない。8月上旬、住民で組織する有害鳥獣の駆除隊に同行した。
 隊長の田河晴幸さん(56)がおりの前で手早く猟銃を構える。イノシシが威嚇するように跳び上がる。が、狩猟歴30年のベテランは動じない。
 「パン」
 乾いた発射音が響き、白煙が上がる。イノシシが倒れる。突っ張った足がけいれんしている。
 素早く、隊員が巨体をおりから引きずり出す。体長などを測定し、軽トラックの荷台に積み込む。かつてはタンパク源として珍重されたが、放射性物質を含んでおり、食用に回せない。
 「引き金を引く瞬間は申し訳ないの一言。食べてあげることが供養になるのに」。田河さんがつぶやく。「でも、これは故郷を守る戦いなんだ」

<帰還阻む>
 浪江町は原発事故後、全住民が避難を強いられた。今春に一部の避難指示が解除されたとはいえ、自宅に戻った住民は少ない。
 街から人の気配が消えている間、荒れた河川敷はイノシシのねぐらに変わり、民家周辺は格好の餌場となった。避難指示解除後も、状況が大きく改善したわけではない。
 「親子連れだな。ずいぶん来ている」。宅地を巡回していた隊員が足元に目を落とす。空き地や生活道路に大小の足跡が刻まれている。人の領域とは思えない数におののく。
 町内では2016年度、659頭が捕獲された。前年より400頭近く増えた。加えて、アライグマなど小型動物の増加も懸念材料になっているという。
 営農再開が遅れていることもあり、イノシシによる食害はそれほど深刻ではない。しかし、真の被害は生活圏への侵入そのものにある。町の担当者は「安心できる環境でなければ、住民帰還は進まない」と危機感をにじませる。

<知恵比べ>
 福島県によると、16年度の捕獲は全県で推計1万6000頭を超えた。原発事故前の4倍以上。うち3割を浪江町を含む相双地方が占めた。
 各地の駆除隊からは、徐々にイノシシの捕獲が難しくなっているとの声が上がる。わなの仕組みを学び、巧妙に仕掛けをかわしている可能性があるという。住民側も餌を工夫するなど知恵で対抗を試みている。
 福島県富岡町の駆除隊を率いる坂本正一郎さん(69)は「気を抜けば個体数が増えかねない。警戒は緩められない」と力を込めた。


2017年09月02日土曜日


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