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<福島・鳥獣対策最前線>地域で圧力 生活圏守る

箒平地区で水田を囲う電気柵の管理の大切さを説く鈴木さん。林側は草木を切り、緩衝帯とした=福島県広野町

 東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示が解除された福島県内の地域で、イノシシなどの野生鳥獣が暮らし再生の妨げになっている。避難中に動物のねぐらと化した生活圏をいかに元に戻していくか。駆除と処分、前例のない侵入防止策に挑む最前線を歩いた。(福島第1原発事故取材班)

◎原発被災地の行方(下)防御

<対策徹底>
 稲穂が揺れる水田を電気柵がぐるりと囲む。周りは草刈りが行き届き、イノシシが隠れられる茂みはほぼない。侵入被害は今やすっかり影を潜めた。
 福島県広野町中心部から北西へ約10キロの山間部。箒平(ほうきだいら)地区は現在、6世帯ほどの小集落だ。
 東京電力福島第1原発事故に伴う町独自の避難指示が解除されたのは2012年3月。翌年、稲作が本格的に再開されると、稲があちこちで食い荒らされた。住民の避難中に、イノシシが行動域を広げていた。
 「パトロールをすると毎晩、イノシシが現れた。5頭ほどの子連れを10回見た夜もある」。約2ヘクタールを作付けする久保田勝久さん(59)が振り返る。
 設置していた電気柵は十分に機能しなかった。14年の収穫前には、軽トラックから一晩中水田を見張った。見つけたら追い払う生活が1カ月以上続いた。

<被害激減>
 県の対策モデル集落となったのは15年。生産者と住民が話し合い、電気柵が下草に触れて漏電しないようこまめに草を刈った。電圧チェックも徹底した。
 さらに住民が山林の雑木を除去し、数百メートルにわたって緩衝帯を設けた。すると、イノシシの隠れ場所となる茂みが水田から遠くなり、被害は激減した。
 行政区長の鈴木恵太郎さん(64)は「集落が団結して取り組んだ成果。駆除だけに頼らず、柵や緩衝帯といった対策の組み合わせが大事だった」と話す。
 避難指示が解除された地域では、イノシシの農地被害と生活圏侵入の双方が大きな課題。対策の基本は変わらないが、街をねぐらにした野生動物を追いやるのは簡単ではない。
 効果的な取り組みを確立しようと、3月末に避難指示が解除された福島県浪江町中心部で、県などのモデル事業が始まった。

<点から面>
 町が国の事業を活用し、被害が出ている農地を高さ約1メートルのワイヤメッシュ柵で覆う。草刈り、やぶ払いで隠れ場所もなくす。
 圧力をかけ続けることでイノシシを市街地の外側へ追いやる作戦だ。柵はこれまで8カ所に設置した。
 「侵入を防いで餌から遠ざけ、見通しをよくすれば近づかなくなる」。町の担当者は効果を期待する。
 県はノウハウを避難解除地域で共有するため、原発事故の被害が大きかった12市町村による対策会議を設置。イノシシの生態や柵の設置技術などを学ぶ職員向けの研修会を定期的に開いている。地域で対策を担う住民を含めた態勢づくりにも力を入れる方針だ。
 県の溝口俊夫野生動物調査専門官は「点から面へ、対策を広げていくことが必要。人材を育てて技術を地域レベルまで浸透させ、各地が同時並行で動けば、イノシシに大きなプレッシャーをかけられる」と長期戦を見据える。


2017年09月05日火曜日


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