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<再生に挑む>温泉整備 交流拠点に

無料開放で訪れた入浴客を迎え入れ、笑顔を見せる大山社長(右)

◎天翔水産(石巻市)岩手・山田で母の夢実現

 東日本大震災で行方不明になった母の夢が、かないつつある。
 商業施設や住宅の建設が進む岩手県山田町の中心部に7日、日帰り入浴ができる温泉宿泊施設「湯らっくす」がオープンした。石巻市の漁業用餌問屋、天翔水産が経営する。

<本業復活に4年>
 大山純一社長(56)は「町民が温泉に漬かり、にこやかにくつろいでいる。これが見たかった。何よりうれしい」と感慨を込めた。
 同社は震災前、町中心部で大山旅館を営んでいた。三陸沖で操業するカツオ船に餌のイワシを運ぶ拠点として1975年、社員向けに開業した。夏は海水浴客が加わり、にぎわった。大山社長の母貞子さん=不明当時(74)=は旅館に住み込み、切り盛りした。
 震災の津波は海岸近くの大山旅館をのみ込んだ。貞子さんと連絡が取れなくなり、石巻市の自宅や倉庫、宮城県女川町にあったイワシのいけすは全壊した。
 大山社長が山田町にたどり着いたのは1週間後。津波と火災で一面が真っ黒になった町を捜したが、貞子さんは見つからなかった。
 本業の復活には4年かかった。漁港やいけすが整備され、イワシの定置網漁が再開したのは2015年。ようやくカツオ船に餌を届けられるようになった。
 「次は山田の旅館だ」。大山社長はせかされるように思い立った。震災前、貞子さんが繰り返し語った言葉を思い出した。
 「旅館の風呂が温泉だったら、地域の人も集まる場になるのに」
 温泉の掘削費を含め施設の総工費は約3億円。諦めずに金融機関や役所を訪ね、融資とグループ化補助金が受けられることになった。

<町の鳥にちなむ>
 16年に着工。掘削すると地下約50メートルから冷鉱泉が湧き出した。加熱は必要だが、源泉掛け流しの「温泉」だ。山田町の町の鳥にちなみ「うみねこ温泉」と名付けた。
 宿泊施設「湯らっくす」は、町中心部のかさ上げや造成工事の影響で予定より5カ月遅れて完成。オープンを記念し、今月1〜3日は温泉を無料開放した。訪れた町民は3日間で600人に上った。
 「山田は今も復興工事が続き、住民が集まる場所は少ない。震災でコミュニティーが壊れたケースもある。住民のつながりを再構築する拠点にしたい」
 大山社長は意気込む。母の思いが事業再興の原動力となり、地域復興の一助となる。(報道部・田柳暁)


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2017年09月16日土曜日


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