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<衆院選東北>国難(5完)働き方/へとへと際立つ運送業

高速道路のパーキングエリアで休憩するトラックの列。ドライバーの労働時間は長く、負担は大きい=宮城県大和町(本文とは関係ありません)

 月末の金曜日は、仕事を早く終えて余暇を楽しもうと、政府が推奨するプレミアムフライデーだ。その9月29日、仙台市の運送会社で働くトラック運転手の鈴木信二さん(56)=仮名=は早朝からの仕事を終えて午後7時に帰宅した。翌日午前3時には家を出る。
 「なにがプレミアムだ。こっちは寝るだけで精いっぱい」
 政府は長時間労働の是正を目指し、残業時間の上限規制を法制化する方針。「過労死ライン」に基づき、残業の年合計を720時間に設定したが、自動車運転業務は別枠として960時間となった。
 現場のドライバーは「過労死しても仕方ないということか」と憤る一方、複雑な感情を抱く。業界の収益環境が変わらない以上、残業が減れば給与がさらに下がる不安があるからだ。

<膨らむ負担>
 運送業界は1990年代の規制緩和で新規参入が一気に進んだ。過当競争のあおりで運送会社の収入はしぼみ、ドライバーの負担は膨らんだ。
 鈴木さんのある一日はこうだ。
 午前3時に会社の車庫を出て北上市に向かう。荷主の指定時間は午前7時半。高速道の料金は自社負担のため、一般道を走る。到着後、積んでいたタイヤ1500本の荷降ろしをする。数人がかりで2時間を要した。
 次は食品会社の配送センターへ。積み込み作業の順番待ちに3時間かかった。帰宅は午後7時。安全運転のため、最低6時間の睡眠は欠かせない。翌朝も早く、妻とゆっくり会話をする時間はない。
 ハードな荷物の積み降ろしは本来、荷主の役割だが、過当競争の末、運転手が担うことが常態化した。待機時間も原則、運賃とは別に荷主が運送会社に料金を支払う仕組みだが、サービス扱いとなって運賃に含まれた。

<求人難深刻>
 過労死等防止対策白書によると、2010〜15年に脳・心臓疾患で労災認定を受けたケースのうち「運輸業、郵便業」が全体の約3分の1を占めた。
 人手不足も深刻だ。自動車運転業務の8月の有効求人倍率は2.75倍で、平均の1.35倍を大きく上回る。
 国土交通省は11月、運賃と他の業務の料金を明確に区別するルールを取り入れる。実効性の保証はなく、仙台市内の運送会社社長は「中小企業は値上げを求めにくい。負担してくれる荷主がどれだけいるだろうか」と嘆く。
 運送業界の働き方改革には、消費者も含めた社会全体の意識を変える必要がある。鈴木さんは「それこそが政治の仕事ではないか。このままでは物を運ぶ人がいなくなる」と訴える。(報道部・保科暁史)

[メモ]政府は3月、働き方改革実行計画を策定。罰則付きの残業時間の上限規制導入や「同一労働同一賃金」の実現などを盛り込んだ。残業上限を特例でも年720時間で、繁忙期で月100時間未満、2〜6カ月の平均で80時間とした。自動車運転業務や建設業、医師などは適用を5年間猶予する。労働基準法改正案などを臨時国会に提出する予定だったが、衆院解散で先送りになった。


2017年10月20日金曜日


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