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<夢風がつないだ縁>相互交流 仕事呼び込む

収穫した加工用トマトを見せる荒川さん

 秋田県にかほ市の海岸で、首都圏の生活クラブ生協が回す1基の発電用風車「夢風(ゆめかぜ)」が、都市と地方の関係に新風を吹き込んでいる。風力発電の売電益を元手に5年前、にかほ市民と生協組合員の相互交流がスタート。生活クラブに食材を提供し、「消費材」(組合員が共同購入する商品)を共同開発する間柄に発展した。都市と地方が自然エネルギーを介し、ウィンウィン(相互利益)の関係を築く地域間連携のモデルとして注目を集める。(報道部・長谷美龍蔵)

◎にかほ・風車プロジェクトの5年/(上)新風

<「ちょっと違う」>
 夢風は、日本海に面した市北部の芹田地区に建つ。
 東日本大震災後の2012年3月、首都圏の生活クラブ東京、神奈川、千葉、埼玉4生協が海べりの自治会用地を借り、建設した。
 出力1990キロワットの大型風車。年間490万キロワット時を発電し、全国の約1万世帯と事業所に電力供給する子会社の生活クラブエナジー(東京)に全量を売電する。
 風車はにかほ市にとって珍しくはない。鳥海山麓の仁賀保高原などに建ち並び、市民は見慣れている。
 「夢風はちょっと違う」。芹田自治会長の荒川定敏さん(70)がそう感じたのは13年8月、生活クラブが開いた風車の稼働1周年を祝うイベントだった。
 二十数人の地区住民が招待され、バーベキューをしながら組合員たちと語り合った。風車のオーナーと地元住民との交流は皆無に等しく、新鮮に映った。「縁があるのかな」と思った。
 荒川さんは直感を信じ、すぐ行動した。「招待のお礼」を口実に、地区営農組合が収穫した新米10キロずつを「夢風米」と勝手に名付けて4生協に贈り、地区の農産物を売り込んだ。

<トマト栽培受託>
 米価が思うように上向かず、地域は疲弊が進む。「何とかしなければ」と危機感は募るものの、これまで転機に恵まれずにいた。
 4生協の組合員は合わせて24万世帯。つながりができれば巨大市場がぐっと近づく。「指をくわえて見てるなんてできなかった」
 荒川さんの思いは15年に結実する。米の取引は困難だったものの、生活クラブが製造するケチャップ用のトマト栽培を託された。63世帯の地区にとって、大きな「仕事」が舞い込んだ。
 休耕田を畑地化し、1年目は約3トンを栽培。2年目は不作だったが、3年目の今年は収穫量を約6トンに伸ばした。出荷の最盛期は住民総出で作業に当たった。
 全国的に加工用トマトの生産者が減少し、渡りに船だった事情もあるが、「最後は熱意にほだされた」と生活クラブ神奈川専務理事の半沢彰浩さん(58)。実績を評価し、昨年は豆乳用の大豆生産プロジェクトを市内全域で始めた。
 芹田地区には、生活クラブとの連携事業を学ぼうと、昨年から東京の大学生が訪れている。高齢化率が40%を超える地域で、若者との交流が熱を帯びる。
 「たった1基の風車から、これほどの話に広がるとは想像もしなかった」。夢風をきっかけに少しずつ変わり始めた地域で、荒川さんは顔をほころばせた。


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2017年11月04日土曜日


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