福島のニュース

<原発被災地の行方>作物転換 ハウス切り札 安心感醸成、未来へ道筋

知人のハウスでカスミソウの収穫を手伝う菅野さん。自身のハウスは地力回復に向けて麦を植えている=福島県飯舘村

 東京電力福島第1原発事故の被災地で、暮らしに欠かせない買い物環境の整備が重い課題となっている。帰還した住民は利便性の低下に不安を募らせ、商店主は避難による顧客喪失に立ちすくむ。にぎわいは取り戻せるのか。福島の現状を探った。(福島第1原発事故取材班)

◎実り再び(下)風評対策

 風評を嘆くだけでは展望は開けない。農業再興に向け、農家は逆風の中で活路を探り続ける。
 東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示が今春、一部を除き解除された福島県飯舘村。純白のカスミソウが今年、東京の大田市場に出荷された。
 生産組合のメンバーは4人。その一人、菅野徳子さん(61)はコメ、野菜農家からの転身組だ。昨年11月に避難先の福島市から自宅に戻り、花用のハウス4棟を新たに整備した。
 菅野さんは「同居していた長男夫婦は村外に新居を構えた。花は野菜と違って人手が少なくて済む。出荷時の放射能検査が不要なのもありがたい」と話す。

<新品種にも挑戦>
 競合産地が限られる花類は比較的販路が安定しているとされる。食用ではないため風評の影響も受けにくい。安値が定着した野菜などと異なり、正当な市場評価を得られる利点がある。
 福島県によると、飯舘村を含む相馬双葉地方の花農家は現在85戸。うち44戸は原発事故までコメなどを手掛けていた。「風評にあらがうのではなく、土俵を変えて風評を避ける」。農家の動向からは、そんな戦略の広がりが見える。
 飯舘村の菅野さんは来年、ハウスを2棟増築して新品種に挑戦する計画を立てる。「収穫の喜びを味わえた。できることをやっていく」と意欲をたぎらせる。
 ひとたび産地に刻まれたマイナスイメージを消し去るのは難しい。いかに「安全・安心」を消費者に届けるか。食用分野でも、ハウス栽培が切り札の一つとなる。

<「再生の先兵に」>
 南相馬市原町区の「南相馬復興アグリ」は2015年暮れ、大規模なトマト工場を稼働させた。土を使わない液肥栽培を導入し、水は深井戸からくみ上げる。夏場以外は外気も遮断するなど、汚染リスクを極限まで減らした。
 年約600トンのトマトを食品大手のカゴメに出荷している。一部スーパーは独自ブランド名で販売し、豊かな風味が購買客から高い評価を得ている。
 復興アグリの半谷栄寿社長は「農業再生の先兵になるのがわれわれの使命。消費者の安心感を醸成し、露地栽培再開へ道筋をつけたい」と力を込める。
 避難区域が解消された福島県川内村では、水稲の育苗ハウスを活用したブドウの実証栽培が進む。初の収穫となった今年は約130房が実った。
 原発事故まで村内に果樹農家はなかった。16年にブドウの生産組合が組織され、既に20人近くが名前を連ねる。「売り方を工夫すれば川内の名も発信できるはず」。組合長の秋元英男さん(63)は、風評克服の先に地域の未来を見据えた。


2017年12月01日金曜日


先頭に戻る