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<東北の本棚>不屈の精神力 浮き彫り

琥珀の夢 小説 鳥井信治郎

◎琥珀の夢 小説 鳥井信治郎 伊集院静 著

 サントリー(現サントリーホールディングス)の創業者である鳥井信治郎(1879〜1962年)の波乱に富んだ生涯や商魂、志を受け継いだ子孫の姿などを円熟した筆致でつづった。傑出した実業家の先見の明、豊かな商才、人徳、不屈の精神力などを深い理解に基づき浮き彫りにしている。
 物語は「経営の神様」の異名を持つ松下幸之助が、少年時代に大阪の商店街で信治郎と出会い、人生の肝心や商いの心得を教示してもらう劇的な場面から始まる。
 信治郎は13歳の時、丁稚(でっち)奉公先の薬種問屋で洋酒を知り、その色合いの美しさに魅了される。20歳の若さでぶどう酒の輸入販売会社である鳥井商店を大阪で設立。1907年には国産初のぶどう酒「赤玉ポートワイン」を製造、発売して事業を軌道に乗せ、21年に社名を寿屋に改めた。
 信治郎は長年の夢だったウイスキーの製造にまい進する。23年に日本初のウイスキー蒸留所となる山崎蒸留所を建設。29年には試行錯誤の末、「サントリーウイスキー白札」を発売した。63年にはビール製造にも参入し、社名もサントリーに変えた。
 本書では信治郎の人生のさまざまな節目を取り上げ、労苦や重大な決断の背景を深く描いている。中でも「やってみなはれ」の精神や陰徳の大切さが強調され、進取の精神に富み、慈愛に満ちた信治郎の人柄に著者がほれ込んでいる様子が伝わってくる。「気張るんやで」と何度も言わせ、信治郎の人生を象徴する言葉として印象付けている。
 著者は1950年山口県防府市生まれ。仙台市泉区在住。92年に「受け月」で直木賞、94年に「機関車先生」で柴田錬三郎賞、2002年に「ごろごろ」で吉川英治文学賞を受賞。16年に紫綬褒章を受章している。
 集英社03(3230)6080=上下巻各1728円。


2017年12月03日日曜日


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