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<葡萄美酒 風土を醸す>自然派ワイン 畑の個性ありのままに

酒井ワイナリーの自社畑でブドウの収穫作業を手伝う東京のイタリア料理店の社員ら=2017年10月、山形県南陽市赤湯

 自らブドウ畑を耕し、畑近くに醸造所を構える本格的なワイナリーが増えている。ワインは中国・唐時代の詩人王翰(おうかん)が「葡萄美酒 夜光杯」とうたったように古今東西で醸され、その土地土地で愛されてきた。東北の風土に根差すワイン造りの現場と、東北に影響を与えたワイナリーを訪ねた。(報道部・菊間深哉)

◎(上)酒井ワイナリー(山形県南陽市赤湯)

<伸び放題の下草>
 雑木がそちこちに生えるブドウ畑を、クモの巣をかき分けて登る。伸び放題の下草からヘビがすり抜け、2頭のヒツジはブドウのつるをかじっていた。
 「虫の音がやたら聞こえるね」「醸造に使えるブドウの粒って少ないんだ」
 10月、南陽市赤湯の酒井ワイナリーの自社畑「ウルイ沢」。東京・目黒でイタリア料理店3店舗を展開するタバッキ(東京)の社員20人が、赤ワイン用ブドウを収穫していた。
 店で提供する自然派ワインの現場を知ろうと、収穫を手伝い始めて3年目。オーナーシェフの堤亮輔さん(39)は「畑に画一的なきれいさがないのは、農薬を使っていないから。生産者の信念に共感した」と話す。
 酒井ワイナリーの畑は、あるがままの自然に近づけることを理想とする。樹木に手を入れず、多様な動植物が生存競争を繰り広げる。殺虫剤を散布しない代わりにヒツジを放す。

<農地を引き取る>
 社長の酒井一平さん(38)が循環型の自然農法に切り替え始めたのは2006年ごろ。一部の畑では試練が待ち構えていた。口を開ければ飛び込むほどのセミが大量発生、次の年はクモ、その次はカエルやヘビ…。やがて食物連鎖の均衡が取れ、畑は落ち着いた。
 タバッキによる手伝いを仲介したワイン卸の葡萄酒蔵ゆはら(茨城県つくば市)の営業部長、犬塚賢さん(47)は「強烈に畑の個性を体感できる。ワイン生産の原点を教えてくれる数少ないワイナリーだ」と指摘する。
 酒井ワイナリーの創業は1892(明治25)年と、東北で最も古い。初代山形県令の三島通庸(みちつね)の殖産興業策に呼応し、ワイナリー初代の酒井弥惣(やそう)が赤湯の山肌にブドウ畑を切り開いた。
 増えた畑は第2次世界大戦後の農地改革でワイナリーの手を離れ、地元のブドウ農家らに引き継がれた。だが、近年は農家が高齢化し廃業が増えるなど、産地としての変革を迫られている。5代目の一平さんは家業に入った2004年以降、放棄された畑を引き取り、購入したブドウで醸造するだけになっていたワイナリーに自社栽培を取り戻した。
 「ワインは土地の個性を反映するからこそ、世界中で造られてきた。赤湯を写すワインは、赤湯のありのままの自然の中でブドウを育てるのがいい」
 一平さんが実践するワイン造りは、自然と人間の在り方そのものを問い掛けてくる。


2017年12月05日火曜日


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