山形のニュース

<食味に懸ける 山形米戦略’17>第2部(上)物語/産地の情景 消費を刺激

主力品種「はえぬき」を収穫する江目さん=10月中旬、山形県河北町
「いいなこっす」のロゴ。3本線の交差は最上川と寒河江川の合流点に広がる実り豊かな水田を表す

 2018年産からのコメの生産調整(減反)廃止を見据え、食味の良さを前面に出して生き残りを懸ける山形県の生産現場は、生産者や地域の農協がそれぞれ販売力を高めつつある。こうした動きは、県主導のブランド戦略と並び、産地のイメージや情報発信に大きな影響力を持ち始めている。個々の消費者から外食産業、大手商社まで。顧客獲得に向けた現場の挑戦を追った。(山形総局・宮崎伸一)

 「寒河江川に流れるのは月山の雪解け水。水温が低いから、収量は少ないが、うま味が凝縮する」
 寒河江川と最上川が合流する山形県河北町溝延地区。農業江目(ごうのめ)一広さん(66)は、先祖代々伝わるコメ作りを語りだすと言葉に熱を帯びる。

<独自ブランド化> 
 今年3月、地区の農家やコメの集荷業者ら5人と事業協同組合「米COME(こめこめ)かほく協同組合」を設立し、独自ブランドを立ち上げた。
 ブランド名は「いいなこっす」。ギリシャ神話に登場する川の神「イーナコス」と、山形弁で「いいね」を意味する「いいなっす」を掛けた。地区のコメ作りに独自の物語性を持たせ、ファンを獲得する狙いだ。
 オリジナルのロゴは、最上川と寒河江川を表す2組の3本線が交差する図柄。清らかな月山の雪解け水と最上川の流れに育まれたコメという特性を表す。
 ブランド化の効果はてきめんだった。4月末には町のふるさと納税返礼品に採用された「はえぬき」に寄付者のリクエストが相次ぎ、10日足らずで予定量30トンが底を突いた。
 来年はふるさと納税の寄付者を中心にネットで注文を募り、四季折々の産地の表情をメールマガジンで発信しながら販売しようと、体制づくりを進める。
 産地の風景や農作業を映像で発信し、消費者の想像力を刺激する。この手法の先駆けは、鶴岡市の有限会社「田和楽(たわら)」だ。
 稲わらで米俵や民芸品を製作、販売してきたが、1995年の食糧法施行に伴うコメ流通の自由化を受け、96年に作付面積3ヘクタールでコメ作りに参入。売り上げを順調に伸ばし、耕作放棄地を受け入れて作付けを約30ヘクタールに拡大。生産量は160トンを超えるまでになった。

<自前で売り切る> 
 カルガモ農法を導入し、乾燥は天日干し。育苗から田植え、稲刈りまでの作業風景を随時、会員制交流サイト(SNS)で発信し、思い入れのあるコメ作りを消費者にアピールする。
 主に口コミで広がった全国の顧客に通信販売しているほか、近年は県内の老舗旅館やホテルとも契約し、全て自前で売り切る。
 通信販売の価格は特別栽培米「はえぬき(5キロ)」が2674円(税込み)と決して安くない。代表の佐藤智信さん(46)は「環境への配慮といった価値を含め、コメの品質について納得した上で購入しているはず。顧客とつながる農業を目指している」と話す。
 東京・JR錦糸町駅近くで全国の47銘柄を扱うコメ専門店「亀太商店」店主の市野沢利明さん(59)は高校野球の実況に例え、「試合前に流れるふるさと紹介と同じで、産地の歴史や特徴を知ればコメは一層味わい深くなる」と説明。「当たり前の食材だからこそ、秘められたストーリーが価値を持つ」と強調する。


関連ページ: 山形 経済

2017年12月16日土曜日


先頭に戻る