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<東北の本棚>反戦思想の根底には愛

◎むのたけじ笑う101歳 河邑厚徳 著

 昨年8月、秋田県六郷町(現美郷町)出身のジャーナリストむのたけじさんが101歳で亡くなった。本書は晩年に密着した映画監督が、素顔と反戦思想の根底に迫った。
 むのさんは同年1月、さいたま市の自宅で誕生日を迎えた。亡き妻の思い出を交えて愛と性を語り「男と女が1時間2時間抱き合う。あの喜びをしのぐ経験はない」と力説した。同席した著者は話の意外な展開に驚くと同時に、男女がお互いを失いたくないという気持ちこそ、むのさんが戦争に立ち向かう原理だと気付く。
 むのさんは講演や対話集会に力を注いだ。特に若い世代は社会を変える力があると確信していた。やせて小柄な体で「このままでは人類は滅ぶ。戦争を絶滅させなければならない」と叫び、聴く人の心を揺すぶった。
 5月3日、東京・江東区の公園で5万人の憲法集会に参加。勝負服と称する赤いシャツを着て護憲を訴えたのが聴衆の前で話す最後となった。6日後、急性肺炎で入院。病状は一進一退を繰り返し、自宅に戻った後の8月21日、息を引き取った。
 むのさんを長年介助し、みとりをした次男は「ニコッと笑い、私の手を握って亡くなった」と証言する。「生まれるのはめでたくて死ぬのは悲しいというのはおかしい。人生は死ぬ時がてっぺん」と死生観を語っていたむのさん。信念を貫いた者こそ、笑って死ぬ権利を持つことを自ら証明した。
 むのさんは戦時中、新聞記者として宇垣一成ら政界、軍部の大物を取材し、終戦を機に退社。横手市で30年間、週刊「たいまつ」を発行した。本書は本人への詳細な聞き取りによって孤高の生涯を描き、読み応えがある。
 著者は1948年、名古屋市出身。NHKプロデューサーの後、大正大特命教授。長編ドキュメンタリー映画「笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ」を昨年11月、全国公開した。
 平凡社03(3230)6573=842円。


2017年12月17日日曜日


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