宮城のニュース

<犬(ワン)ダフル!>私の相棒(1)盲導犬 広がる視界増える笑顔

スーパーでパンを買う佐々木さん(右)。ヴェルテが優しく見守る=昨年12月14日、仙台市宮城野区

 人と犬は今や、飼い主とペット以上の関係を築いている。人の心を支え、癒やし、時には命を救ってくれさえする。戌(いぬ)年の始まりに、東北で育まれた犬と人の強い絆を紹介する。

 パン屋さんでは商品の全てが茶色い塊に見える。スーパーの総菜売り場で、コロッケとハムカツの見分けがつかない。階段の上り下りでは何度も踏み外す。車や自転車と、しょっちゅうぶつかりそうになる。
 左目は光しか感じ取れず、右目の視力は0.06。白杖(はくじょう)なしでは生活できない。
 先天性の緑内障を患う仙台市宮城野区の主婦佐々木千穂子さん(52)にとって、外出は恐怖と隣り合わせ。故郷の弘前市から仙台市に来た約16年前は両目とも0.1の視力があったものの、徐々に低下した。

 全盲の夫と中学3年の息子、小学5年の娘の4人暮らし。成長する息子が少しずつ見えなくなり、娘に至っては常におぼろげだ。2人に絵本の読み聞かせをしてあげられなかったことが、今も悔しい。
 「ママは盲導犬、必要じゃないの?」
 3年前、授業で日本盲導犬協会仙台訓練センター(仙台市青葉区)を訪ねた娘に問い掛けられた。
 「今は少し見えるから。将来、お世話になるかもね」。盲導犬は、視力を完全に失った人が利用するものだと思っていた。
 ある日、娘に連れられて足を運んだスーパーで、盲導犬育成の募金活動が行われていた。ボランティアとしてその場にいた知人経由で訓練センターの宿泊体験を紹介され、2016年5月に参加。初めて訓練犬と街を歩いた。
 「こんなにすいすい歩けるんだ」。世界が広がるのを実感した。白杖を使って歩くと常にうつむき、足元ばかりに注意が向く。訓練犬は上を向かせてくれた。周囲の音や匂いを感じる余裕までも与えてもらった。
 ゴールデンレトリバーの「ヴェルテ」(雌、2歳)と昨年8月、正式にパートナーになった。
 「焼き鳥かな」「パンを焼いているね」。散歩や買い物で話し相手になり、笑顔が増えた。息子と娘も「歩くのが早くなった」と喜んだ。

 翌月、JR仙台駅前の商業施設内にある大規模映画館を初めて1人で訪れた。お目当ては東野圭吾さん原作の「ナミヤ雑貨店の奇蹟(きせき)」。大好きな俳優西田敏行さんの声を満喫した。
 それまでは、自宅近くの小さな映画館に行くのが精いっぱいで、見られる映画は限られていた。
 ヴェルテの姿を見て、店員さんや周囲の人が障害に気付いてくれる。口に出せなかった「お手伝い、お願いします」も、ヴェルテと一緒なら自然に言える。
 欲しいパンも、スムーズに買えるようになった。「今日はカレーパンかな」。店員が持ってきてくれる。
 カラオケ、旅行、子どもの部活の大会、大相撲の巡業。行ってみたい未知の世界、心の目で見てみたい景色はたくさんある。
 パートナー歴は約半年。ヴェルテはまだ、道草をしようとしたり、他の犬に興味を示したりすることもある。お互い、半人前。だから「伴」侶なんだと思う。
 新しい世界に導き、視界を広げてくれたヴェルテを心の底から尊敬している。
 「生まれ変わったら盲導犬になりたい」(岩田裕貴)


関連ページ: 宮城 社会

2018年01月01日月曜日


先頭に戻る