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<犬(ワン)ダフル!>私の相棒(2)災害救助犬 命懸けの捜索 志つなぐ

在りし日の文太に思いをはせる岩本さん夫婦。いとおしむようにイチゴが遺影に首を伸ばす=昨年12月8日、青森市

 人と犬は今や、飼い主とペット以上の関係を築いている。人の心を支え、癒やし、時には命を救ってくれさえする。戌(いぬ)年の始まりに、東北で育まれた犬と人の強い絆を紹介する。

 遺影のラブラドルレトリバーに左目はない。代わりに、まぶたを縫った痛々しい傷痕がある。表情は口を大きく広げ、愛嬌(あいきょう)たっぷりだ。「泣かないで。そばにいるよ」と呼び掛けているかのように。
 警察犬・災害救助犬の「文太(ぶんた)」は昨年11月9日、12歳で逝った。「賢くて優しい子だった」。青森市のNPO法人「北東北捜索犬チーム」理事長の岩本良二さん(68)が遺影を見詰める。
 青森県警勤務時の2005年9月、生後2カ月で知人から引き取った。おもちゃを隠すと、教えずとも口にくわえてきた。「素質がある。『捜索犬』にする」と決めた。警察犬と災害救助犬を合わせた、岩本さん独自の呼び名だ。
 見込み通り、2歳で警察犬に合格。難関とされる災害救助犬の審査も4歳で突破した。初出動した強盗事件で犯人の運動靴を発見するなど、県警から毎年、感謝状が贈られた。

 文太はそんな栄誉より、岩本さんがご褒美でしてくれるボールを探す遊びの方がうれしかった。
 岩本さんは08年にチームの前身団体を設立し、捜索犬の育成を始めた。「災害現場などで、もっと犬を活躍させたい」と考えていたさなか、東日本大震災が発生。救助要請を受けて11年3月中旬、文太と釜石市に入った。
 未体験の災害現場。「とにかく訓練通りに」。自らにも言い聞かせ、4月上旬まで計11回、文太と岩手県内の被災地を歩き回った。夜は車中泊。「大丈夫、一緒だぞ」。寒さに震えながら文太の体を引き寄せた。
 約1年半後、文太の左目に黒目のようなものが幾つもあることに気付き、動物病院に駆け込んだ。皮膚がんの一種、メラノーマ(悪性黒色腫)だった。
 「震災のストレスが原因の可能性もある」と医師は説明した。被災地では捜索に没頭し、ご褒美をやるのを忘れていた。
 手術で左目を失った文太は舌をべろりと出し、七転八倒した。捜索犬から引退させるつもりだったが、自宅に戻った文太は他の犬の訓練を見ると大はしゃぎした。「やりたいなら、やらせよう」。再び山岳救助や行方不明者の捜索に加わった。
 昨年11月9日早朝、病気で入院中の岩本さんの携帯電話が鳴った。「文太が息を引き取った」。妻の久子さん(67)が告げた。未明から部屋の床を爪でかきむしるほど苦しんでいたという。
 「もう頑張らなくていい」。そう声を掛け続ける久子さんの腕の中で、文太は目を閉じた。「俺の失敗だ。申し訳ない」。岩本さんは病室でむせび泣いた。

 1カ月後、岩本さん宅の訓練場に、雌のラブラドルレトリバーの姿があった。「行け!」。岩本さんの掛け声で8歳の「イチゴ」が障害物を飛び越える。
 身に着けたハーネス(胴輪)と鈴は文太の遺品だ。「イチゴがとても落ち着くの。文太が寄り添っているのかな」。久子さんがほほ笑む。
 夫婦は捜索犬の養成を続ける。「立派な犬を育てることが、文太の命を引き継ぐことになる」(畠山嵩)


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2018年01月03日水曜日


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