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<私を返して>旧優生保護法国賠訴訟 国の過ち問い直す

市野川容孝教授

◎東大大学院総合文化研究科市野川容孝教授に聞く

 遺伝性疾患や知的障害を理由に、国は旧優生保護法下で本人同意のない不妊手術を全国約1万6500人に強制した。その責任を認めさせるため、手術を強いられた宮城県の60代女性が30日に提訴し、司法に望みを託す。訴訟の意義や不妊手術の問題点について、東大大学院総合文化研究科の市野川容孝教授に聞いた。(聞き手は報道部・畠山嵩)

 −母体保護法への改定から約20年がたち、強制不妊手術の問題が初めて司法の場に持ち込まれます。
 「国は1953年の都道府県知事への通達で、不妊手術のための身体拘束や麻酔の使用、だます行為を認めた。あまりに暴力的で許されない。国連が実態解明や補償を求めたが、国は現在も『当時は合法』という態度を崩していない。母体保護法で関連条文を削除したが、優生政策の過ちにきちんと向き合ってきたかどうかは疑問だ。司法判断が問題解決の突破口になり得る」
 −強制不妊手術を巡り、ほとんどの被害者が声を上げられずにいます。
 「ハンセン病では療養所に強制隔離された被害者が団結したが、この問題では被害者が孤立したままだ。手術には家族も関わっており、誰にも話したくないだろう。被害者側に非は全くない。不当な手術の実態を明らかにするには被害者の証言が不可欠だ。訴訟をきっかけに被害者が結束できるかどうかが重要になる」

 −日本における優生思想とは。
 「もともと優生学は遺伝と密接に関係している。だが、戦後の日本では障害のある人は価値が低いという考えを表すものとして、優生思想という言葉が広まった。遺伝に関係なく、障害者への差別を示す日本独特の言葉だと言える」
 −法改定後も不妊・避妊手術を強いられている人がいます。
 「日本の優生政策は、法律の文言と実情にずれがある。旧優生保護法は、遺伝性疾患を減らすために強制手術をするのが建前。実態は、障害者が子どもを生んだら育てられないし困るのではないかという周囲の『善意』の押し付けで、その発想は法改定後も続いている。不妊手術の背景には医学的理由だけでなく、社会的理由もあることを認識すべきだ」
 −国に求められていることは。
 「立法府(国会)が定めた法律に従って施策を行ってきたというのが厚生労働省の主張だ。だが、53年の通達で身体拘束などを許可したのは(前身の)旧厚生省。行政府の責任を自らしっかり問い直してほしい」

[いちのかわ・やすたか]東大大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。明治学院大専任講師、東大大学院助教授を経て、2009年から現職。専門は医療社会学。東京都出身。53歳。著書に「優生学と人間社会−生命科学の世紀はどこへ向かうのか」(共著、講談社現代新書)など。


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2018年01月28日日曜日


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