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<東北の本棚>天才ダメ息子に注ぐ愛

銀河鉄道の父 門井慶喜 著

 「雨ニモマケズ 風ニモマケズ」の一見素朴な「詩」から宮沢賢治は「清貧」のイメージをまとう。だが実際には岩手・花巻の生家は裕福な質屋で父政次郎は町会議員も務める名士。賢治は長男ながら家業を嫌い、政次郎との間には信仰上の対立があった事実も伝わる。
 そうはいっても父が物心両面で支え続けたからこそ、今日に至る賢治文学の栄光があるのだろう。第158回直木賞に輝いた本書は、家庭的にはダメ息子ながら不世出の詩人・童話作家となる賢治とのユニークな父子関係を、政次郎の視点で描きだしたフィクションだ。
 1874年生まれの政次郎は「質屋に学問はいらぬ」という父に従い、進学を諦めた過去がある。ところが賢治が希望すると一転して教育に理解を示し「これぞ明治の新しい父親」と自己満足に浸る。盛岡中学校、盛岡高等農林学校に進んだ賢治は成績ががた落ち。洋書を買う、製飴(せいい)工場を経営する、人造宝石を開発すると夢を語っては金の無心。試しに質屋の帳場を任せれば客になめられる。額に汗して働く意欲に乏しく、プライドだけは高い総領息子だった。
 37年の短い生涯を駆け抜けた賢治が生前出版したのは「春と修羅」「注文の多い料理店」の2冊のみ。文学として評価されたのは死後のことだが、父は息子の才能を信じた。5人の子を持つ政次郎は、長男賢治とすぐ下の長女トシをみとらねばならない数奇な運命を生きた。
 作中描かれる政次郎のキャラクターに、つい「雨ニモマケズ」を思い出す。「ヒデリノトキハナミダヲナガシ サムサノナツハオロオロアルキ…」。賢治が追求した篤実な人間像が、決して期待通りの道を歩まぬ長男を案じ、不器用に慈愛を注ぐ父の姿と二重写しになった。
 著者は1971年群馬県生まれ。3人の男の子の父。子育て体験の反映なのか、本書でもわが子に注ぐまなざしの温かさが印象的だ。
 講談社03(5395)5817=1728円。


2018年01月28日日曜日


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