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<原発事故避難者集団訴訟>「声を上げ続けなければ、事故で何もかも失う現実を矮小化されかねない」原告団事務局長

判決後の報告集会で発言する金井さん=22日午後3時20分ごろ、いわき市

 「次への足掛かりにしたい」。東京電力福島第1原発事故で避難指示を受けた福島県双葉郡の住民らが、古里喪失の慰謝料などを求めた訴訟。22日の福島地裁いわき支部判決を聞き、原告団事務局長の金井直子さん(52)は「古里喪失の損害は認められた」と一歩前進と捉えた。ただ、慰謝料の認容額は低く「控訴審で取り返す」と自らを奮い立たせた。
 法廷で訴えたのは、努力して手に入れた「古里の価値」と、それを根こそぎ奪った被害の実態だった。
 田舎暮らしに憧れ、30歳の時、夫、2人の息子と共に、母の実家に近い楢葉町に埼玉県から移り住んだ。地域に溶け込もうとPTAや地区の活動に加わり、友人もたくさんできた。農家がお裾分けの野菜を玄関に置いていくような助け合いの暮らし。息子も周囲に見守られて育った。
 移住の10年後に夢のマイホームを新築。町内の工場ではパートから正社員に登用され、責任ある仕事も任された。「頑張ったかいがあった」。手応えを感じた頃、原発事故が起きた。
 全町避難となった古里。失った仕事や地域のつながり。現実を前に責任を認めない東電の姿勢に怒りが湧いた。「平穏な生活を奪っておいて誰も責任を取らず、謝らず、学ばない」。悲劇を繰り返してはならないとの一心で提訴した。
 避難先のいわき市で中古住宅を購入。町の避難指示は2015年9月に解除されたが、元の生活が戻るわけではない。生活拠点をどこに定めるか。結論の出ないまま過ぎる日々が苦しい。
 「顔見知りの緊密な人間関係は失われた」「顧客基盤を失い、事業再建を断念した自営業者が少なくない」「家族との別居を余儀なくされた」。判決は過酷な被害実態を詳細に認定したが、損害額は原告の求める水準に遠く及ばなかった。
 原告団の早川篤雄団長らといわき市で報告集会に臨んだ金井さん。「地域の当事者として声を上げ続けなければ、ひとたび事故が起きれば、何もかも失うという現実が矮小(わいしょう)化されかねない」と闘い続ける決意を新たにした。

<司法の役割 果たさず/元裁判官で原発訴訟に詳しい井戸謙一弁護士の話>
 事故が起きれば膨大な被害を生む原発を設置、運転する東京電力は、津波の可能性に備えた対策をいくらでも取れた。漫然と運転を続け、緊張感を欠いた姿勢は厳しく問われなければいけない。しかし、判決は逆に「著しく合理性を欠くものではない」と認めた。司法の役割を果たしていないと言わざるを得ない。

<被害認定は一歩前進/大阪市立大の除本理史教授(環境政策論)の話>
 判決が、地域社会の崩壊やコミュニティーの喪失といった、深刻な「古里喪失」の被害があると認めたことは、一歩前進だ。しかも慰謝料の要素とした点は評価できる。一方で、認定額は原告の請求よりも圧倒的に少ない。原告の思いとはかけ離れた金額で、課題は残る。


2018年03月23日金曜日


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