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<柳美里流書店術>(中)Who 誰、私は一体/境界を漂流たどり着く

ファンと触れ合う中村さん(左)と柳さん。ほぼ毎週末に開く、芥川賞作家らと近距離で触れ合えるトークイベントは好評だ。感激のあまり泣きだす参加者もいる

 柳美里さん(49)は日本生まれの日本育ちだが、韓国籍の「在日」だ。
 「38度線の存在しない朝鮮半島をずっと思い描いてきた」
 動きだした半島情勢が気になる。
 4月27日の歴史的南北首脳会談の翌日。柳さんが開いた南相馬市小高区の書店「フルハウス」裏。倉庫を改装した「劇場」で恒例のトークイベントがあった。
 「聞いていいのか。柳さん、きのうをどう見たの」。トーク相手の芥川賞作家中村文則さん(40)が突っ込む。
 「テレビに見入った。だけどコメンテーターのあまりにレベルの低い発言にスイッチを消した」
 代わって韓国で出会った、元は北の軍人で南に強制連行された小説家李(イ)浩(ホ)哲(チョル)さんの言葉を引いた。
 「南北の人が同じテーブルに着き一緒に食事をする。その回数が増えたら統一したと考えるべきでは」
 南北首脳が食事を共にしたのを評価し、続けた。
 「北にだってたくさんの人がいる。日本文学研究者も。反日教育で全員が日本人を敵視しているかというとそうでもない。その顔が伝わらないのが不幸だ」
 柳さんは南相馬市の臨時災害放送局「南相馬ひばりエフエム」(今春閉局)の番組を担当。耳を傾けた東京電力福島第1原発事故などの被災者は延べ600人近い。小高区の避難指示解除(2016年7月)に向けた住民説明会にも足を運んだ。
 気付いたのは被災地を分断する悲劇だ。
 「原発事故により、地域と親子きょうだいと職場とのつながりが断たれ、暮らしが傷つけられた。カネで償えない大事なものを失った」
 分断は優しくない。
 柳さんはかつて従軍慰安婦やヘイトスピーチの問題に触れた。ネットの世界で「そんなに日本が嫌なら半島に帰れ」と心ないバッシングが飛び交った。むき身の心は打ち震えた。
 「かつては潜伏していた差別意識が顕在化している。この風潮は危険だ」
 「福島の子とは結婚させられない」。原発事故後のあからさまな偏見にも同じ臭いを嗅ぎ取った。
 「それまでの鎌倉市の暮らしに違和感を覚えた」
 15年春、南相馬市への移住を決めた。
 被災者の話を聞き、もう一つ分かったことがある。朝鮮戦争時に韓国を離れた母の父、柳さんの祖父が南相馬市原町区でパチンコ屋を営んでいた奇遇だ。
 市内に朝鮮人が多く暮らす地域があり、狭いまちで差別があった。自分が近くに住み着く不思議さも感じた。
 日本人でも韓国人でもない。柳さんは境界を漂流してきた。
 パスポートは韓国のもの。海外出張しても「日本に帰る」「帰国する」と言えない。日本はあくまで「向かう」国家だ。
 「だけど『小高に帰る』、こうは言える」


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2018年05月20日日曜日


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