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健康の医学教室

身近な病気や症状について、東北大医学系教授らが最新情報を伝える

東北大
加齢医学研究所臨床腫瘍学分野
教授 石岡 千加史 さん

1984年東北大医学部卒業。88年同大学院医学系研究科修了。マサチューセッツ総合病院がんセンター(ハーバード大)研究員などを経て、2003年から東北大加齢医学研究所癌化学療法研究(現臨床腫瘍学)分野教授。東北大病院副病院長を兼務する。

【テーマ】人にやさしい個別化がん医療 ―次世代がん医療を考える―

患者の遺伝情報を調べ
最適な治療法選ぶ時代へ

人の受精卵の細胞は1個ですが、細胞が分裂して胎児になると60兆個に増えます。その数は高齢者もほぼ同じです。分裂するとき、親から受け継いだコピーのゲノム(全遺伝情報)を全部の細胞に収納しています。その一部が遺伝子です。人は99.9%同じ遺伝子配列を持っていますが、残り0.1%の差で、体質など個人差が生まれます。

細胞内の遺伝子に何らかの異常が起きて蓄積されてできるのが、がん細胞です。がんには個性があり多様です。例えば肺がんの場合、腫瘍1つ当たり300~400個の遺伝子変異が見られます。見かけは同じでも「転移しやすい」「増殖スピードが速い」「薬が効きやすい、逆に効きにくい」などの多様性があるのが、がんの手ごわいところです。

効果的な分子標的薬開発も

がんは早期に発見すれば、手術や内視鏡治療でほぼ治る時代になりました。しかし、ステージ3になると5年生存率は70%弱、ステージ4になると、例えば大腸がんの場合、以前は約11%でした。それが近年は少しずつ良くなり30%ほどまで向上しています。効果的な分子標的治療薬が開発されてきたからです。どの遺伝子に異常が起きているかを調べ、標的となる細胞だけを狙い撃ちする薬です。従来のがん治療薬に比べると、患者さんの負担がより少なく、治療効果も上がっています。

治療前から効果や副作用が予想できれば、高価な薬を効果的に使用できますが、まだ個々の効果を予測する検査法が確立されていません。これからは、遺伝子などの指標となるバイオマーカーと新薬を合わせて開発していくことが求められています。

東北大もゲノム医療本格化

従来は肺や肝臓など、臓器ごとの治療法が研究対象になっていましたが、今、ゲノム医療が注目されています。患者さんの組織から細胞を取ってゲノムを調べ、個人ごとに最適な治療法を選ぶ個別化医療です。ゲノム医療を進めるには膨大なデータが必要です。東北大では東北メディカルメガバンクが中心となって民間企業とタイアップし、人工知能を駆使してゲノム医療を本格化する仕組みづくりを始めています。 

さらに、個々のライフスタイルに合わせて対応できるような治療メニューを作っていくのが未来型医療です。特に高齢者は体力的にも個人差が大きく、価値観も違います。治療を選択するか否かも含め、個人の価値観にまで対応するといったことをしなければ、本当に人に優しい個別化医療の実現にはならないと考えています。  

(2017年12月26日講演)