ベネチア国際映画祭報告2007

1. コンペ部門、豪華な顔ぶれ

2007/8/29

 今年、誕生75周年を迎える、第64回ヴェネチア国際映画祭が8月29日より開催されました。いつものように、開催日の前々日にリド島に入り、プレス登録をしようと主会場の映画宮殿(パラッツォ・デル・チネマ)の前に来て見てびっくり。なんと、巨大な球で壁に大きな穴が開いているではありませんか!(写真上)

 もちろんこれは映画美術のマジック。今年で4年の任期が切れるディレクターのマルコ・ミュラーが、映画美術家ダンテ・フェレッティあたりに頼んで、フェリーニにオマージュを捧げつつも、新しい時代の到来をつげるための、皆をあっと言わせる飾りつけなのだろう、と勝手に推測し、顔見知りのドイツ人ジャーナリストに、「ほら、あの壁、あれは大きな球が壁を破って出てくるフェリーニの映画へのオマージュだよね、何て映画だっけ?」と尋ねたら、「何言ってるんだい、あの壊れた壁は、来年、映画宮殿を建て直すぞって意味だよ」と、素っ気なく答えられてしまいました。長年、噂にのぼっていた手狭になったパラッツォの建て直しがついに、そして本当に始まるのでしょうか。それは新ディレクターが誰になっているのか(マルコ・ミュラーが続投する気満々という噂も)と並ぶ、来年までのお楽しみとしましょう。

 さて、今年のラインナップもまた驚きの連続です。まずは顔ぶれの豪華さ。エリック・ロメール、ケン・ローチ、ニキータ・ミハルコフ、ユセフ・シャヒーン、ブライアン・デ・パルマ、ピーター・グリーナウェイという巨匠たちと、ケネス・ブラナー、アン・リー、ポール・ハギスといった中堅がコンペを競い、去年の金獅子賞受賞者ジャ・ジャンクー、ジョナサン・デミ、アレックス・コックスらがオリゾンティ部門の賞を競い、招待作品にはクロード・シャブロル、ウッディ・アレン、そして極めつけの大巨匠、今年99歳のマヌエル・デ・オリヴェイラの新作まで顔をそろえているのです。そして、イタリア製西部劇マカロニ・ウェスタン(マカロニというのは淀川長治先生の造語で、欧米ではスパゲティ・ウェスタンと呼ばれています)の特集。セルジオ・レオーネの記念碑的作品「荒野の用心棒」から、なぜか工藤栄一の「五人の賞金稼ぎ」まで30数本を揃えた、ファン垂涎の大特集になっています。

 今年の審査員は、委員長の張芸謀、エマヌエーレ・クリアレーゼ、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、カトリーヌ・ブレイヤ、ポール・バーホーベンら、例外的にすべて監督で揃えたところも驚き。この驚きが、新しい才能の発見という本当の驚きにつながってくれるのかどうか。それは、これから見てのお楽しみです。

写真上は、映画宮殿の壁に大きく開いた穴。

写真下は、審査員記者会見での張芸謀とマルコ・ミュラー。中国映画の専門家で、中国語に堪能なマルコ・ミュラーが、張監督と親しげに挨拶を交わしあっていました。

筆者紹介

齋藤敦子さん 映画評論家。パリで映画編集を学んだ。フランス映画社宣伝部から90年にフリーとなる。G・ノエ、グリーナウェイの諸作品を字幕翻訳。最新作は「麦の穂をゆらす風」。「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)などの翻訳書も。