ベネチア国際映画祭報告2007

3.デ・パルマ監督の意欲作「リダクテド」

2007/9/02

「リダクテド」の一場面

 今年は英語圏の映画が多いことは先にお伝えしましたが、同じイラク戦争をテーマにした2本のアメリカ映画が相次いで上映されました。ブライアン・デ・パルマの「リダクテド(編集済)」とポール・ハギスの「エラの谷で」です。

 「リダクテド」の舞台はアメリカ軍が治安維持のために派兵しているイラクの村。3人の兵士を主人公に、家庭用のデジカメで撮ったビデオ映像、フランスのジャーナリストが撮ったドキュメンタリー、アラブ圏のネットで流されたニュース映像など、既存の映像を再編集するうちに、彼らが犯したレイプ殺人事件の顛末が浮かびあがってくる、というひねりの効いた作品でした。もちろん、すべてデ・パルマの手で撮影されたフェイク・ドキュメンタリー。HDで撮って編集した作品をHDで上映するという、今までのデ・パルマには考えられない、大胆な方向転換を試みた作品でもあります。

 「エラの谷で」は、イラク帰還兵の殺人事件の真犯人を、元軍人の父親(トミー・リー・ジョーンズ)と基地の町の女性刑事(シャーリーズ・セロン)が探るうちに、イラク戦争の闇が見えてくるという作品。ここでも、父親にメールで送られてきた携帯のカメラで撮った映像に、映画のテーマに関わる重要な役割が与えられています。エラの谷とは、旧約聖書に登場する、羊飼いの少年ダヴィデがペリシテ軍の巨人ゴリアテを倒した戦場のことです。

 2つの作品を見ていて思ったのは、テクノロジーの進歩で、小型のデジカメやカメラ付き携帯が普及し、今や戦争は前線から世界に発信される時代になったという事実でした。しかし、いみじくもデ・パルマが活写した通り、あらゆる映像は主観で撮られおり、真実はカメラの後ろに隠れているかもしれない、ということです。すべてを“大本営”が発表していた時代に比べ、現在は情報操作が不可能な時代になりました。だからこそ、情報を扱う方も受ける方も、氾濫する映像を見分ける能力が、これまで以上に求められているのではないかと思うのです。

 右の写真は、2本目の日本映画、31日に正式上映が行われたオリゾンティ部門の「サッド・ヴァケイション」の一行です。左から光石研、石田えり、青山真治、浅野忠信、宮崎あおい、オダギリジョー、とよた真帆、高良健吾の皆さん。「サッド・ヴァケイション」は、青山監督の出世作「Helpless」と、カンヌ映画祭で国際映画批評家賞を受賞した「EUREKA ユリイカ」の2本の登場人物のその後を描く作品。続編というよりは、さらに多様な人間模様が展開し、最後は大きな母性が男たちの傷を包み込んでいく、という青山作品には珍しい“女性映画”です。

筆者紹介

齋藤敦子さん 映画評論家。パリで映画編集を学んだ。フランス映画社宣伝部から90年にフリーとなる。G・ノエ、グリーナウェイの諸作品を字幕翻訳。最新作は「麦の穂をゆらす風」。「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)などの翻訳書も。