ベネチア国際映画祭報告2008

4.子供たちに祝福を 「崖の上のポニョ」

2008/9/2

正式上映前にスタンディングで監督を迎える満員の観客と、それに応える宮崎駿監督

 映画祭が中日を迎えた8月31日の日曜日、宮崎駿監督の「崖の上のポニョ」の正式上映が午後5時から主会場のパラッツォ・デル・チネマで行われました。観客に子供連れが多かったのが、いつもの上映風景とはちょっと違うところ。宮崎監督は2005年の名誉金獅子賞受賞の際にリド島を訪れ、本島に比べて緑が多く、木陰が涼しいリドの雰囲気が大いに気に入られたようですが、今年は「暑くて、人が多くてがっかり」。でも、その大半が宮崎監督の映画を楽しみに来た人であるのは確か。正式上映が終わって、満員の会場からスタンディングで鳴りやまぬ拍手を贈られると、「いいお客さんに出会えて、幸せな映画だと思った」と、普段は辛口の監督も心から喜んでおられる様子でした。

 「周りのスタッフに次々に子供が生まれ、子供の話を聞きながら、初めて映画を見る子供のために作った」という「ポニョ」は、確かにこれまでの宮崎作品の緻密な描写とストーリー性とは別の、生まれたばかりの子供が胸いっぱいに空気を吸い込んで、手足を元気に動かしているような躍動感に満ちています。

 その秘密は、この世に生を受け、これからの時代を歩いていこうとする子供たちに祝福を与えたいという監督の温かな心と、「アニメ作品がCG化していく中で、頭の中までデジタル化しないよう、自分達は鉛筆を握っていこうと覚悟した」という鉛筆1本の強さ、初めてアンデルセンの人魚姫を読んだ少年のときに、「人間に魂があって、人魚に魂がないのはなぜか納得できなかった」、ゆえに「あぶくになってもいい映画を作ろう」という反骨精神の賜物のように思われました。

筆者紹介

齋藤敦子さん  映画評論家。パリで映画編集を学んだ。フランス映画社宣伝部から90年にフリーとなる。G・ノエ、グリーナウェイの諸作品を字幕翻訳。  最新作は「麦の穂をゆらす風」。「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。