ベネチア国際映画祭報告2008

5.若い創造力に感服 「$E11.OU7!」

2008/9/2

朝早くから切符売り場に並ぶ映画ファンの列

今年はバッジを見せるだけでOKになった検問所

 日本では集中豪雨で被害が出ているようですが、今年のヴェネチアは宮崎駿監督も嘆いていたように、晴れて暑い日が続いています。それでも湿度が低いので、日本よりは過ごしやすいのですが、気温のせいか数年ぶりに蚊が大発生し、かなり被害を受けて閉口しています。

 その他に去年と違う点は、警備が緩くなったこと。会場周辺に柵が設けられ、会場内に出入りするには警備員の立っているゲートで“検問”を受けるシステムは去年と同じですが、厳しかった手荷物検査は年々緩くなり、今年はよほど大きな荷物を持っている人以外、映画祭のバッジを見せるだけでOKになりました。それからもう1つ。映画祭の先付け(今年は“史上初のコメディ映画”といわれるリュミエール兄弟の「水を撒かれた水撒き人」のパロディ)の前に、“上映中の作品を録音または録画することは著作権の侵害にあたる”という警告が出るようになったことです。映画祭が海賊版製作者のターゲットになっている現状を踏まえての処置でしょうが、なんとなく悲しい気分になります。

 批評家週間で面白いアジア映画を見ました。マレーシアのヨー・ジョンハン監督の「$E11.OU7!(SELL OUT!)」で、なんとミュージカル映画です。主人公は、巨大複合企業FONY社傘下のテレビ局でアーティストのインタビュー番組を制作しているラフレシアと、万能大豆調理器を発明したエリック。視聴率の不振で番組が打ち切られそうになったラフレシアは、臨終間際の人へのインタビューを生放送することを思いつくのですが、最初は偶然うまくいったものの、2人目の出演者が見つかりません。一方のエリックは、製品のオリジナリティ(FONY社は、確実に儲けるために他社のヒット商品のコピーしか作らない)と、耐久性(FONY社の製品は必ず保証期間終了直後に壊れるよう、時限破壊装置を組み入れなければならない)を糾弾されてクビになり、恋するラフレシアにも振られて自暴自棄に。ラフレシアは、そんなエリックに目をつけて番組のためにカメラの前で自殺してくれるように頼むのですが…。

 ストーリーの中にも批評精神があふれていますが、公用語を英語にし、猛スピードで近代化に邁進してきたマレーシアの抱える問題をウィットと音楽で表現してしまったヨー監督の柔軟な頭脳と、お金のないところはアイデアで、という若い創造力に感服しました。

 写真は映画祭の日刊紙「チャック」の星取表“スター・ウォーズ”。10人の批評家と一般から選ばれた10人の観客が最高5つまでの星をつける恒例の人気欄。先ごろまで「アキレスと亀」がトップでしたが、週が変わると「崖の上のポニョ」がトップ(赤)になっていました。「ポニョ」は一般の観客の10人のうちの6人が満点をつける人気ぶりです。

筆者紹介

齋藤敦子さん  映画評論家。パリで映画編集を学んだ。フランス映画社宣伝部から90年にフリーとなる。G・ノエ、グリーナウェイの諸作品を字幕翻訳。  最新作は「麦の穂をゆらす風」。「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。